ー番外編3ー




見た目はとっつき難いと思われても仕方がないが、一旦相手を認めるとそれまでとは打って変わって親しみを持ってくれる日向。もちろん不器用な彼なりの方法でだが。
対して、見た目はとても接し易く、だがしかし、表向きとは別に本心は明かすことのない岬。

相反していると思える二人が親友とまで思えるほどに仲良くなるのには、そう時間が掛からなかった。
もちろん、それまでもサッカーを通してライバルと言えるほどの仲にはなっていたのだが。

バイトがある時、弟達を置いて出かけることに多少なりとも罪悪感があった日向には、寂しいからとよく顔を出してくれる岬に、内心から感謝していた。
日向の母親も立場上、申し訳なく思って、何度となく、「ただ遊びに来るだけでいい。」と言うのだが、岬はそれにも笑顔で「僕も一人だから一緒に食事が出来て嬉しい。」と反って岬の方が頭を下げた。
岬の父親にもお礼を伝えたが、やはり、男親というのがあるからか、それとも岬側としては家にお邪魔しているということがあるからか、岬の父親からも「世話になって申し訳ない。」と頭を下げられた。
日向自身も「俺があとは面倒を見るから。」と、何度となく訴えるのもあった。岬とも「毎日ではなく、来れる日だけ。」という約束にもなっている。
結局、できる範疇でという条件のもと、日向家の食卓は子ども達に任せることになった。




「岬、いつも悪ィな・・・。」

日向のらしからぬ言葉に岬がクスリと笑う。
親には、「自分達は大丈夫だ。」と訴えながらも、日向自身、実際は岬に申し訳ないと思ってはいるのだ。

「別に僕も一人きりにならなくて嬉しいから・・・・お互い様だから気にしなくていいよ。それから、今日の夕食だけど、直子ちゃんのリクエストがハンバーグだから、それに決めたから・・・。いいよね?」
「あ〜〜〜、まぁ、いいが・・・。本当に悪いな・・・。」
「大丈夫だよ、みんなで作っているから!」
「そうか・・・。」
「あ!」
「何だ?」

さっそくバイトに行こうとする日向に後ろでポンと手を叩く音が聞こえた。

「そういえば、今日、若島津もここに来るって言ってたから、若島津の分も作らなきゃ!」
「は!?」

驚く日向に岬はちょっとバツが悪い顔をする。

「何の話からだったか忘れちゃったけど、話の流れから、若島津に言っちゃったんだ。今日、小次郎の家で夕食をとるって。そしたら、じゃあ、俺も!ってことになって・・・。別にいいよね?」

食事の人数が増えたことに多少悪いと思っているのか、上目遣いに見る岬に日向は苦虫を噛み潰した顔をする。

「・・・・・・言っちまったもんは仕方がねぇ・・・。だが、それ以上メンバーが増えないようにしとけよ。これ以上はうちにゃあ入りきれねぇ・・・。」
「わかってる・・・。それに、小次郎も厳しいキャプテンという立場があるからね。あんまり見られたくないでしょう?兄バカなとこ・・・。」
「・・・・・・。」

さらに顔を苦くする日向に岬は明るく答え、先に彼の弟達と一緒に買い物へと出かける。
日向は、なんとなくヘソの辺りがムズムズするのを耐えて、新聞配達のバイトへと向かった。

屋台のバイトは今日はないため、食事を取ることは一緒にできる。
若島津もいるということは、確かに部屋は狭く感じるだろうし、彼に見られたくない部分を見られてしまう危険があるが、もう約束してしまったのなら仕方がない。彼に口止めすればいい、と日向は思いなおした。
人に見られるにはなんだか恥かしいほどに、ままごとをしているような気もしないではないが、それで弟達が喜ぶのなら、それも致し方がない。
日向は新聞屋へ向かう足を早めた。


日向が帰宅したときには、すでに若島津も来ており、彼も一緒になって夕食の準備をしていた。
若島津に口止めをした時、複雑な顔をしていたが、彼なりに日向の家と彼自身のことを心配していたのだろう。
最初は納得しかねる顔をしていた若島津だが、「これでみんなが楽しく過ごせるのなら・・・。」と最後には笑って自分達の作った料理を口にしていた。


親にも許しを得て。
大事な仲間の一人にも笑って話をして。
そうこうして、岬が日向の家を訪れるがごくごく日常になり、月日は流れて行った。



















気が付けば秋も終わり、すっかり冬らしく、寒さが厳しくなってきた12月も中旬。
冬休みが目前ということもあり、冬休みにまた力を入れるということと、日が暮れるのが早いといこともあり、サッカーの練習は早々に切り上げる日々が続いた。
子ども達にとっては暗くなろうがサッカーには関係ないような気もしたが、照明設備のない学校では、確かにボールが見えず、練習にもならない。寒さも手伝って、誰も彼もが足早に岐路についた。

「僕、今日も行っていい?」

あまり汚れる間もなく綺麗なままのサッカーシューズを片付けながら岬は日向に顔を向けた。

「あぁ・・・まぁ・・・。だが、俺、今日はバイトが遅くまでになってるから、いつもの時間には帰れないぞ。」

なんだか、会話が家族か夫婦に近いようで、チームの大概のメンバーはこの事実を知っているにも関わらず、日向は思わず回りに誰もいないことを首をキョロキョロさせて確認する。

「うん。僕も今日からまた、父さんが暫くいないから、遅くなっても大丈夫だよ。」

岬が寂しそうに笑って俯くのを日向は見つめる。
遅くなれば、岬の帰る時間もまたそれに合わせて遅くにずれるだろう。今は夜が早い。男とはいえ、子ども一人で深夜に出歩くのは如何なものか。
自分のことは棚に置き、日向が口を開けかけたそれを止める。言いたかったことはそのまま岬の答えとは微妙にずれていたが、それで岬自身の寂しさも薄れるのなら、そういうことにしておこう。

「お前がいいなら・・・・・いいぜ。どうせ、今日も母さんは遅くなるらしいから・・・。・・・いや、反って助かる。悪いが、尊達を頼めるか?」

すっかりと岬に懐いた弟達の顔を思い出す。

「ありがとう。小次郎・・・。」

顔を上げた岬は、いつになく笑顔だった。
岬もやはり一人は寂しいのだろう。
忙しくて構ってもらえない親を恨みたい気持ちが湧きそうになるのをその理由を思い出してやり過ごす。
同時に自分はもうそんな年ではないことも考え合わせると同時に、それは自分だけではない、とお互いの存在に気づいてしまった。
だからなのか、ついつい日向は岬が家に来る事を日常化してしまうほどに容易に許してしまう。
岬もごく当然のように日向の弟達の面倒を見てしまう。

そしてお互いの存在が、自覚もないままに必要不可欠になろうとしていた。

「じゃあ、今日の夕ご飯は、カレーでいいかな。そうすれば、小次郎が帰ってきてからも簡単に温め直して食べられるでしょう?」

それだったら家にある材料で作れるだろう。
もちろん買い物に行く時間がないわけではないが、最近食べていないメニューでもあったし、弟達が好きなメニューでもあるので異論はない。

「あぁ、いいな・・・。」
「じゃあ、決まりね。僕、一旦帰ってから、買い物してから小次郎ん家に行くよ。」

すっかり片付けが終わった岬は、鞄を肩に掛けながら立ち上がった。

「いや、それなら家にある材料で、作れるから買い物は必要ない。」
「そう?でもサラダも作りたいから・・・。」

カレーだけでもかなり野菜は摂れるだろうにサラダまで作ろうと言う岬に、日向は、小学生とは思えない程の栄養バランスを考えることに本当に頭が下がる思いだった。

「そうか・・・。だったらそっちの材料は買ってきてくれるか?」
「もちろん!」

すでにどんなサラダかまで決めているのだろう、野菜の名前をぶつぶつと呟きながらうきうきしている岬に、日向な内心笑ってその場を立った。

「じゃあ後で!」
「あぁ、俺はいないかもしれんが、尊達には言っておくから・・・。」

お互いに笑顔で練習場を後にした。






その後、日向が遅くバイトから帰って来れば、家にはもう岬の姿はなかった。


07.6.28




HOME   BACK     NEXT




今回、話があまり進まず・・・。すみません。