永遠の思いはあるのか18





「グエッ!!」


のんびりと睡眠を貪っていたら腹に衝撃を感じ、ゾロは目を開けた。

「かえるの潰れた声を出してんじゃねぇ!ほら、おとっつぁん、てめぇの息子の面倒を見やがれ!いつまでも、俺を乳母にしてんじゃねぇ!!」

太陽を背にサンジは上からゾロを見下ろしていた。
その横には、ギュッとサンジのスーツの裾を握ってくっついているプットが不安そうにゾロを見下ろしている。

「あ"ぁ?」

サンジの物言いに思わず眉を寄せる。

「せっかく涙の再会を果たしたんだ。いつまででもそんなんじゃ、プットが怖がるだろうが。」

ギロリとゾロを睨みつけるのとはまったく違う表情でプットに声を掛ける。

「・・・・ほら、プット、お前の父ちゃんは怖くねぇから、そんなに俺にしがみつくな。」

軽く抱き上げ、チュッと頬にキスを送る。くすぐったそうに喜ぶ子どもと、蹴りを落とす自分へとの扱いの違いにわかってはいてもつい舌打ちしてしまいたくなる。

「てめぇの方が、そいつ離さないんじゃねぇか?」

ポロッと嫌味を溢す。

「何いってやがる!んなこたぁねぇ!!」

多少自分でも自覚があるのか、くるりとまわった眉がピクピクと震えている。
顔を真っ赤にして否定しているが、それが反ってサンジの心の内を現しているといってもいいだろう。
そしてプットの方も、サンジの方との時間が長いため、サンジと一緒にいるのが当たり前になっている。
サンジにゾロの世話になってもらえ、と言ったところで、到底無理だ。
ゾロが本当の父親と言葉では言ってもまだはっきりとは認識できないし、会ってまだ間もない。プットにとってはずっと一緒にいて自分を可愛がってくれるのが父親なのだ。

だが。
それでも、ゾロが父親なのだ。
サンジは改めてゾロの前にプットを降ろした。

不安そうにサンジを見上げるたプットを見て、ゾロはため息を吐いた。

「俺ぁ、父親と言うものには到底向かない男だ。どうせ、お前に懐いているし、一緒の船にいるんだ・・・。別に何もしないわけじゃねぇが、今まで通り、お前も遠慮しないで面倒を見ればいいだろうが・・・。」

サンジが困った顔をする。

「どうしてそう拘るんだ?」
「そりゃあ・・・、やっぱ、てめぇが本当の父親だからだ。俺は到底本当の父親にはなれない。それに・・・・、ずっとお前が戻ってくるのを信じて待っていたナミさんの気持ちを考えろ。」

俯き加減で話すサンジにゾロは眉を顰めた。

「お前・・・・。昔と同じことを繰り返すつもりか?」
「・・・・・別にそういうつもりは・・・・。」

言葉に詰まるサンジに、ゾロはゆっくりと立ち上がりサンジの真正面に位置する。

「時間がゆっくりと出来た時にでも、話そうと思っていたが・・・・・。」

一旦躊躇したが、一呼吸間を置くと、意を決したようにゾロは眼をまっすぐにサンジに向ける。
ただでさえゾロとサンジのやりとりに目をぱちくりするプットだが、ゾロの言葉にしない気持ちに何かを感じたのか、突然、「まぁまぁ!」と叫んで、ラウンジの方へと走り去った。
突如、場を離れるプットにサンジが慌てて反応する。が、それをゾロが引き止める。

「おいっ!」

腕を掴まれたサンジがギロリとゾロを睨むがゾロはそれ以上の険しい顔を向ける。

「ナミを呼んだろうが・・・。それに女部屋へ向かったんだろう?大丈夫だろ。」

逃がさないとばかりに離さない手にサンジはプットを追うのを諦めた。明らかに女部屋へと向かっているし、プットの響く声はナミに確実に届くだろう。女部屋への扉は閉めれらていても、気づいてくれるだろうし、女部屋へと続く倉庫からは海へ落ちる心配はまったくない。
そうして心配な顔を隠せもせずにいたら、遠くナミの声が二人に届いた。
プットがきちんとナミのところに行けたことにサンジはほっと息を吐く。

そして、周りには今誰もいない。

「そうだな。・・・・で?」

肩を竦めて話を促した。

「てめぇは覚えていねぇかもしれないが、俺は言ったはずだ。鷹の目との戦いが終わったら、改めて話をする、と・・・。」
「・・・・・・・。」

忘れていてもおかしくない話を一からする、というのだろうか。
ゾロが行方不明になる前。
鷹の目との戦いへと向かう前に突如持ち出された話。
普通に考えれば、到底、死闘をこれから繰り広げる時の男の会話ではない、と思う。だが、生きてここに戻ってくる為には、改めて考えなければいけないような気がした。だからこそ約束したのだ、生きて帰ってきたらサンジと話をしようと。
そして、ゾロは自分の気持ちをわかってくれるまで伝えようと思っていたのだ。

結局その時は、ゾロが行方不明になったおかげで話をし自分の気持ちを伝えることは叶わなかった。そして、月日は経ってしまったが、今、こうして改めて話をする機会ができたのだ。
ゾロは今一度、サンジに自分の気持ちを話そうと思った。



どれだけ月日が経とうとも変わらない気持ちというのはあるのだということに、実際は半信半疑だった。が、”想い”に対する疑問は、自分の中でずっと燻っていた気持ちがその証明をしてくれる。
その通りに、ゾロのサンジへの気持ちは変わらない。
ずっと一緒にいれば自信の持てる想いではあったが、現実はずっと離れていた。それが、己の気持ちの変化へと繋がっていくのではないか、という不安は多少なりともあったのだ。
ゾロの不安は、彼をずっと忘れたくない、という気持ちと一緒に心の中で同居していた。ただ、その二つの感情のバランスがどう傾いていくのか・・・。
麦わら海賊団を離れている間のことを改めて思い出す。

それなりに楽しい時間もあれば、つらい時期もあった。
快楽に身を任せた時もあったし、苦痛を伴う事もあった。
約3年間、ほんのちょっとの間だと思えばそうでもあるが、長いと思えば長く感じる期間。



俺はアホだな・・・・。

フッとゾロは笑った。

今、こうして仲間と。サンジと再会して、改めて自分はこの男に惚れている、と認識する。
眼を開けて、この男の顔を見たとたんに感情が爆発しそうになったことは、誰にも秘密だが・・・。




「かなりの時間を要してしまったが、こうして鷹の目を倒して、再会したんだ。俺は、あの時の話を続けたい・・・。俺の気持ちは・・・・。」

真正面から目を逸らさずに、己の想いを伝えよとして、口を開くが、それはサンジの手によって絶たれた。

「待て!お前は解らないのか?」
「何が・・・?」

サンジも目を逸らさずにゾロを見つめる。
目を見つめあうことだけにおいては、お互いの気持ちを伝え合うように見えなくもないが、そんな甘い感情とはほど遠い雰囲気が漂っていた。

「俺も覚えている。お前が鷹の目との戦いに臨む前に交わした言葉を。」
「だったら!」
「解らないのか?」

同じ言葉でゾロを詰める。
サンジの云わんとすることがゾロにはわからない。

「あの時から、どれだけの時間が経っていると思っている。今は、あの時とは状況が違うんだ!」

ゾロの眉が跳ね上がった。

「お前の気持ちが今はどうだかはわからねぇ。が、ナミさんはお前のことをずっと忘れずに思っていて、子どもも生まれた。・・・・お前の子だ!」
「・・・・・・・。」
「女性が子どもを産むということがどういうことか、わからねぇのか?」
「それは・・・・。」

サンジの言葉に返答をすることができない。

「女性が命を産み落とすってのは、命がけの仕事なんだぞ!そして、子どもが生まれたら、ハイ終わりってわけにはいかねぇ・・・・。一生、その子どもを育てる責任がある。ナミさんはお前の子どもを産み、育ててるんだ。ずっとお前のことを思いながら・・・。」

自分達の気持ちの話をしたいのに、サンジは絶対ナミ至上主義だ。
どれだけ顔に自分の感情が現れようと、自分の気持ちを口にすることはない。そこも、以前と変わらないのか。
ゾロはぐっと口を引き締めた。

「お前はプットの父親なんだ。そして、ナミさんが母親なんだ。」
「親のいない子どもはいくらでもいるぞ。俺が今頃父親にならなくてもあいつは育つ。」

ゾロの言葉にサンジは激昂する。

「でも同じ船に乗り、一緒にいるだろうが!」

ゾロとしては知らない間に父親になってしまったのだ。この3年間、自分の意思はこの船にはなかった。

「俺が産んでくれって頼んだわけじゃねぇ!!」

瞬間、ゾロはサンジに殴られた。
足で蹴るではなく、コックの命と云われる大事な右手で。

殴られ、壁に吹っ飛んだ音で叫び声が飛んできた。

「何やってんの!!誰、ゾロとサンジくん!?」

暫くして、カツカツとヒールの音が近づいてきた。
ナミが二人がまた、昔のようにケンカを始めたと思ったのだろう。
それ以外にも、ウソップなどが慌てて走ってくるのがやはり足音でわかった。

「悪ぃ・・・。言葉のアヤだ・・・・。」
「その言葉、ナミさんに言うんじゃねぇぞ!!」

サンジは怒りが収まらないようで、今だ拳を振るわせている。

が、それを押し隠して姿を表したナミに素早く反応する。

「何やってんの!プットが昼寝できないじゃない!」
「ごめんよ、ナミさん・・・。こいつがあんまり寝こけてるから、ちょっと仕事を与えようとして起こしたんだ。けど、久し振りだろう?加減がわからなくて、思いっきり蹴っちまった・・・。」

なんとかして言葉を紡いでいるが、いつもの調子が出ず、顔が微妙に引き攣っているのが、誰の目にも明らかだった。紡ぐ言葉もいかにも嘘臭い。
が、サンジがいつものように対応しようとしているため、誰も突っ込めることはできなかった。

「何やってんだよ、サンジィ・・・。船、壊すなよ!ここ最近、故障もなくせっかく落ち着いてきたってのに・・・。」
「悪ぃ悪ぃ、ウソップ・・・。大丈夫だって。」
「ゾロを無理に起こさなくていいわよ、サンジくん。まだ今の生活のリズムに慣れてないだろうから。」

以前のナミだったら口にしないような言葉が出てくる。
それだけ、昔ほど怒らなくなったのだろうか。子どもを持つと本当に女性は変わる。

サンジはまったく昔と変わらないのに・・・・。



今の船の現状に今だ入りきることができないゾロは、内心舌打ちすることしかできなかった。






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07.03.12




日常にならない日常・・・。