永遠の思いはあるのか19
「てめぇは父親なんだよ!少しずつでもいいからプットと関われ!」 サンジの指導により、僅かずつだがゾロとプットの時間が出来始めた。 最初はお互いに恐る恐るといった感じでの接触だった。 それは当然ことだろう。 普通なら目を合わせようとする者さえいないだろう、世界一の剣豪の名を持つ男。 かたやまだ赤ん坊の域を出ない子ども。彼らがどうして仲良くできるのだろうか。 見守るようにして隣に立つナミとサンジが苦笑する。 泣きそうな顔をしてゾロを見上げるプットと。 どう扱っていいのかわからないまま、ただ眉間に皺を寄せるだけのゾロと。 ナミからすれば爆笑しそうなほどお互いに引き攣った顔をして相手に手を伸ばした。 「これならできるだろう?」とサンジのアドバイスにより、まずはよくあるお風呂から、と慣れない手つきでプットを風呂に入れた。 以前も時々チョッパーの背中を流してやったりした事はあるからとゴシゴシと洗ってやると、強く擦りすぎて泣き出してしまった。が、手加減を覚えれば、プットは泡の感触に喜んだ。その笑顔を見て、漸くゾロも「あぁ、こいつもなかなかかわいいじゃねぇか。」と思えるようになった。 次はなんてことはないが、触れ合うだけでも関わる時間は沢山あった方がいい。と、昼寝も一緒にした。 昼寝は元々何をするわけでもない。ただ寝るだけなので、問題なく過せた。それどころか、寝ているゾロの上下するお腹の上は心地良いのか、プットはすぐにお気に入りになった。 そして、おやつも一緒に食べる。 食べ物を溢す。しかも、ルフィ達と違って手の掛かる溢しかたに最初は腹も立ったのだが、そんなものだと、ナミやサンジに窘められて汚れた口を拭うことができるようになった。 まだまだ綺麗に食べることはできないし、ルフィを見よう見まねしているのは手本が悪いと思うのだが、その一生懸命に食べている姿になんだか笑みが零れる。 夜寝る時は、基本プットは母親であるナミと寝る。 だが、せっかくだからと川の字になって寝ることもあった。もちろん、だからと言って、今はナミとは男女の関係はないし、そうなるつもりも今更ない。 とはいえ、船公認という形になり、誰もがゾロが女部屋へ入ることは気に止めなかった。それはサンジにも云えることで、サンジに思いを寄せるゾロとしてはなんだか納得できなかったが、目的は別なのだ。気にする事はない、と自分に言い聞かせた。 プットの方も、昼寝の心地良さを覚えたため、夜もゾロが一緒なのは嬉しいらしい。やたらと一緒に寝たがる回数が増えた。 そうこうしていくうちに。 緊張していた二人の距離も少しずつだが、緩和されてきた。 慣れない険しい空気を持つ男に涙目だった子どもも、恐ろしく思えた男は実は優しく温かみのある男だと知ると、今まで一緒にいなかった分を取り戻す勢いで懐いた。 ゾロの方も何だかんだいってもやはり自分の子だという認識ができたのか、最初は恐る恐るだったのが最近では慣れてきたらしくやたらとプットを抱き上げたり、手を繋いだり、まるで魔獣の言葉とは無縁の人間のように見えた。 と、同時に親として子どもを心配する気持ちも持ち出して、今やゾロの行動は、見ている方が笑ってしまうほどの時もある。 「もう、本当にゾロったら、人形じゃあないんだからぁ〜〜。プットは一人で歩けるわよぉ!」 ナミ以外の者も一緒になって笑う。 「大丈夫だぞ、ゾロ。プットはもう分かってるから、よっぽどの事がない限り海に落ちないって!」 ウソップが釣り糸を垂らして水面を見つめて言う。 その横では、並んで水面を見つめているプットに転落の心配のあまり只管プットの服の裾を力いっぱい握っている剣豪。 ゾロの心配も分からないわけではない。確かにほんのちょっと目を離した隙に海に落ちたことがないわけではない。 ゾロが帰ってくる前、一度海に落ち、大騒ぎになったことがある。が、その事故をきっかけに乗組員のの誰もが、そしてプット本人が海への転落の心配がないように細心の注意を払っている。 ウソップが釣り上げた魚を一緒懸命に覗いている。 今はバケツに魚が入れられているので、海に落ちるような心配はないが、その仕草に思わず剣豪から笑みが零れた。 「一時はどうなるかと思ったけど、すっかり父親になっちゃったわね・・・・。」 「そうだね・・・。人はあそこまで変わるものなんだって、改めてびっくりだよ・・・・。」 少し離れたチェアーに座ってジュースを飲んでいるナミにサンジが苦笑してケーキを差し出す。 プットの分も並んで出されたが、小さな子でも食べられるように工夫がされていた。 「おら、プット。おやつだ!」 サンジが声を掛けると顔を上げて、笑みを溢す。 今までだったら、真っ先にサンジのところに駆けてくるのが、今ではゾロと手を繋いで仲良く歩いてくる。 本当にすっかりといい父親だ。 ナミの座っているチェアー横のテーブルの上に置かれているおやつを見て目を輝かせるプットに「ほら、待て。」とサンジの持ってきてくれたお手拭で手を拭ってやる。 「てぇきぃ、てぇきぃ!」 「ケーキだ。それに、フォークは叩くものじゃねぇ!」 喜んでフォークで皿を叩くプットに注意をするのは、今まではサンジの役目だった。だが、それも今はゾロがプットの父親として躾さえきちんと身につけさせようと注意する。 サンジは目を細めて目の前にいる親子を見つめた。 膝に乗せた我が子が溢すおやつを拾う父親。そして、それを微笑ましく見つめている母親。 海賊船においてあまりにも不釣合いな光景であるはずなのだが、そんなのもまたいいではないか。とサンジは思う。 「俺の役目はもう、終わりだな・・・。」 いかにも家族団欒という光景を背にサンジはラウンジへと引き返した。 ふぅ〜〜〜と煙を吐いた。 天井を仰ぎ見ながら、キッチンに凭れて煙草を吹かす。 ナミの読みによれば、気候は安定してきている。もうそろそろ次の島に着く頃だろう。 今感じる気温と着ている服から考えれば、夏島だろうか。 美味い魚が沢山取れる島だったらいいだろう。刺身なんか、ゾロの好物の一つだ。暑いからいつも以上に酒を飲むだろうし、そうすると自然、酒の肴も増える。 ここ最近の食事は子どもの嗜好にあわせた味付けが優先のメニューになっていた。たまには、辛いものや大人の味のものなどもいいかもしれない。 そして・・・・・。 思考が飛んでいたのだろう。ラウンジに入ってきた人物に気がつかなかった。 「・・・・・たい・・・・。」 「あ?」 何かしら言葉が耳に入ったが素通りだ。 声のした方に顔を向けて、思わず赤面してしまった。 今、サンジの頭の中にいた人物が目の前にいた。 手にした皿を流しに入れ、改めてサンジに向き合った。 「もう一度、話がしたい・・・。」 「プットは?」 「・・・・・おやつを食べて、今はナミが昼寝に付き添っている。チビはいないんだ。二人で話しがしたい。」 「何を話すことがあるんだ・・・?」 今、目の前にいる男は一人で立っていた。ここ最近一緒にいる子どもは隣にいなかった。 「俺は、お前の言葉通り、きちんと父親としての責任を果たしているつもりだ。」 「そうだな・・・。りっぱだよ。」 丸くなることを覚えたのか、目元が僅かに緩んだ気がした。 「だから、お前も俺の言葉に耳を傾けろ。」 「何だ?」 「もう一度、きちんと話をしたい。」 「それは・・・・。」 口篭り、言葉をどう紡いでいいのかわからなくなったサンジは煙草の火を消すことで時間を作った。 「やることはやっている。だからというわけではないが、俺の気持ちもまた認めたっていいだろうが。」 「・・・・。」 真剣な眼差しで見つめてくる男にサンジは俯くしかなかった。 「おい。逃げるな。」 「わかった・・・・。きちんと時間を取ろう・・・・。ただし、次の島に着いてからだ。」 「それで構わねぇ・・・。だが、二人きりでだ。」 「あぁ・・・。わかった。」 サンジの返事にとりあえずは満足したのだろう。 次の島に着くまでのゾロは、プットの世話をさらに力を入れていたように見えた。 そして、次の島に着いたその日のうちにサンジの姿が消えた。 「どうして認めた!!ルフィ!」 夕食の時にルフィの口から出た言葉は、サンジの下船を告げるものだった。 サンジは、船を降りたのだ。 |
07.03.15
みなさんに只管深謝・・・。(本当に誰だよ、こいつら・・・。)