永遠の思いはあるのか20
「どういうことか説明しろ!」 船長の胸倉を掴み、ゾロはルフィに詰め寄った。 「だから、サンジは船を降りたんだ。」 「どうして!!」 さらにぐいっと睨みつける。 ルフィは苦しいとばかりにゾロの腕を外した。 突然告げられる言葉にゾロの頭は真っ白になる。 島に着いても金銭面の関係か、襲撃に対応できるようにするためか、元々みんな一緒に過ごすことがほとんどだった。 今夜もすでに夕食の準備はできていた。また、島に着いたのが遅い時間の関係で島の内情もよくわかっていないため、島には明日からゆっくりと、ということになっていた・・・はずだ。 それがどうしてか、夕食時にはいつの間にか人数が一人足りなくなっていた。 しかも、食事時には絶対にいるはずのコックが。 最初、異変に気が付いたのは誰でもないプットだった。 「まぁま。ぱぁぱは?」 「え?サンジくん?」 すっかりゾロに懐き、ゾロのことも父親と認識しだしたのだが、それでもプットにとってサンジもまだ「ぱぱ」なのだ。 食事時、直接世話を焼くことはなくなっても、サンジはプットに最初に皿を出してくれる。そして優しく頭を撫でて、「沢山喰えよ!」と言って微笑んでくれるのだ。 それが今日はなかった。 夕食時にラウンジに来て。気が付けばテーブルにはいつの間にか食事の用意がされていた。 そして、今回は頭を撫でてくれたのがサンジではなくて、船長だったのだ。いつもなら人のものにまで手を出す船長がプットに「沢山喰え」と言って笑った。 ナミも納得が出来ないらしく、訝しげにルフィを見上げた。 続いて他のメンバーも同様に揃ってルフィを見つめる。 全ての視線を受けて、船長のルフィはゆっくりと掴まれたゾロの腕を外してキッチンの位置へと移動し、流しに凭れる。 ごく自然な動作でキッチンに置きっぱなしになっていた煙草から一本抜き出し、火を点ける。サンジがいつも行う仕草をルフィが行うことに誰もが驚く。始めて見るルフィの煙草を吸う光景を目を丸くして眺めた。 もはや年齢的にも煙草が似合う年頃になってきているのに妙に似合わない。それもそうだろう。ルフィはいつまで経っても子どもと変わらない心を持っている。だからと言って、他のみんなが違うかと言えばそうではないが・・・。 煙草が似合わないのはルフィ自身も承知しているのか、ひと口吸うと、すぐに火を消した。 そして、煙の燻った煙草を見つめてルフィは改めて告げた。 「サンジは船を降りた。もう、ここには戻ってこねぇ・・・。」 誰もが目を見開いて驚く。 そのいつもと違う空気を感じたのか、それとも幼いながらにルフィの言葉の意味がわかったのか、プットが突然火がついたように泣き出した。 ナミが慌てて抱きしめて宥める。 ダン!! ゾロはルフィに詰め寄る。 「説明しろ!!」 じっと見つめるゾロの瞳は怒りに満ちていた。 ルフィはゾロの反応はわかっていたのか、いつになく冷静だ。 「お前のためだ。ゾロ・・・。」 真正面から向き合い、その口から吐き出された理由にゾロは意味がわからない、と眉を寄せた。 「意味がわからねぇ・・・。」 訝しむゾロにルフィはさらに言葉を繋ぐ。 「プットに父親は二人も必要ない、とサンジは言った。」 「意味がわからねぇ。それだけじゃあ、納得できねぇ。」 「俺もサンジにそう言った。」 「だったら・・・。」 何故、サンジの下船を認めたのか、ゾロの目はそう言っている。 「お前達親子の幸せの為だとサンジは言った。」 「・・・・・!」 「サンジは、自分がこの船にいたらせっかく家族として上手くいきだしたお前達をきっと不幸にしちまうって、そう言ってた。意味、わかるか?ゾロならきっとわかるって言ってたぞ。」 「・・・・・・・。」 思い当たる節があるのか、ゾロは俯いた。 「俺はまだまだそういう感情はわからねぇし、人を好きになるとかならないとか、そんなのはそいつの自由のはずだ。サンジが誰を好きであろうと、ゾロが誰を好きであろうと、ナミが誰を好きであろうと・・・・。それはそいつの勝手だ。船を降りる理由にはなんねぇと俺も思う。」 「だったら、何故!」 ゾロは改めて顔を上げた。 「プットがいるだろう?」 「!」 「プットを大人の都合で泣かせたくない、とサンジは言った。」 「じゃあ、俺の気持ちは!」 「ゾロっ!!」 ルフィはゾロの言葉を絶って、睨みつける。 ちらりとゾロの後ろに視線を寄越した。 それにつられてゾロも後ろを振り返る。 そこには。 ぎゅっとプットを抱きしめたナミがぼろぼろと涙を溢していた。 プットも今だわぁわぁと泣き続けている。 ただ泣くだけしかできない母子の姿に沸騰しそうな頭が冷めた。 経緯はどうあれ、思いはどうあれ。 今、ゾロにはナミとの子どもがいて。 まだ幼い子どもを育て守ると決めたのだ。 赤ん坊の時に一番に手を掛けて育てたのがサンジだとしても、これから先、大きくなるのを見守ることを約束したのだ。 それは。 異質な形ではあるけれど、この先、ゾロとナミの子をずっとサンジと一緒に育てるのだとばかりゾロは思っていた。 同時に、その間にお互いの気持ちをはっきりさせ、思いを告げ、結ばれたらいいと思っていた。 しかし、ゾロの希望としていたことは、プットやその母親であるナミを苦しめることだとサンジは判断したのだ。 きちんと話をしたい。 思いをはっきりと告げたい。 そしてサンジの気持ちを聞く。 反応からして、サンジも少なからずゾロのことを思っているのだと思った。そう信じていた。 言葉にはしなかったけれど。 だからこそ、ゾロがいない間もゾロの子どもを大事に育ててくれたのだと思っていた。 次の島で話をしよう。 そう約束していたのに。 これがお前の答えか!! ゾロは強く拳を握り締めた。 ふと、今までずっと黙っていたウソップがポツリと口を挟んだ。 船長のルフィが認めたからと言って、「あまりにも勝手すぎる。」というウソップの言葉に、サンジの下船については改めて本人とみんなで話しをしようという意見も出た。 「サンジを捜そう。」 そういうウソップの言葉にルフィは目を細めた。 ナミが頬を濡らしたままルフィを見つめる。 チョッパーはウソップと同様、サンジを捜したいと言い出した。 しかし、ルフィは首を縦に振らない。 先ほどの興奮はどこへやら、気持ちの冷めてしまったゾロは一歩下がって周りの様子を眺めた。 そうして口を開く。 「コックのことは、もういい・・・・・。降りたいやつは降りればいい。」 「ゾロっ。」 ナミもルフィも。誰もがゾロの言葉に顔を向けた。 ゾロはナミの腕に抱かれているプットに目をやった。いつの間にか、泣き疲れたのだろうか、眠っていた。 食事もまだだったのに・・・。 この愛しい子どもを守りたいんだよな。・・・俺の子どもを。 ゾロは一旦、目を瞑ると改めて眠ってしまった息子を見つめた。 その寝顔は母親に抱かれて幸せそうな顔をしている。 「この島では新しいコックを捜そう。」 ゾロの言葉に頷いたのは、ルフィだけだった。 |
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07.03.18
すみませんすみませんすみません∞。
でも、ゾロサンゾロサンゾロサンゾロサン・・・・。(自分に言い聞かせ?)