永遠の思いはあるのか5
サンジと目があったナミは、先ほどのやりとりの時よりは多少良いが、それでもまだあまりいい顔色をしていなかった。 一体どうして・・・と思う。 サンジは、今度はナミに何も言わずにゾロに目をやる。 ゾロの相手如何によっては、サンジとしても船での行動を考えなければいけないだろう。 ルフィと予想するサンジは、ナミのことを考えると手放しで二人を祝福することはできない、と考える。 それは、男同士だからということではなく、やはりナミの気持ちを考えてのことだ。 だったら自分がナミを幸せにすればいいと考えればいいのだろうが、それが、ナミが本当に望んでいる形とは到底思えなった。 もちろん、ナミと恋愛関係をもてるかと問われれば、喜んで、と答えるのだが、サンジは、ナミには兎に角幸せになってもらいたいと思った。 それは、以前ナミの姉から聞かされた話の所為かもしれない。 苦労の上に苦労が耐えなかったナミ。 ただでさえ女性を讃え、女性には幸せを、と考えるサンジには、ともかくナミの苦労した時代を思うと、当たり前だが見知らぬ通りすがりの女性よりも大事に思う気持ちが大きかった。誰よりも幸せになってもらいたいと思う。 それは、ある意味、妹を思う兄の想いに近いのかもしれない。 どちらにしても、どんな形にしてもナミの幸せを願うことには変わりは無い。 が、ナミほどではないが、ルフィにもゾロにも、不幸になってもらいたくはない。 それは、海賊王になれなかった、とか、大剣豪になれなかったとか、そんなことではなく。 夢破れた理由が、強い相手に負けた等の本人が納得できるものだったらそれはそれで構わない。それは不幸ではない。 確かに夢破れはしても、とてつもなく強い相手に出会ったという、ある種、幸福の部類に入ることではないか、とサンジは思う。 それとは別に。 ゾロにしてもルフィにしても、もちろん他の仲間もだが、夢とは別に仲間に対して幸せになってもらいたいという想いがある。 ゾロとルフィの間も、ナミのことがなければ、二人を認めて喜んでもいいと思う。 男同士の恋人というのは、魚の形をした職場にいなかったわけではないし、また海に住む者たちには間々あることだとも聞いている。 だから、二人を認めるのは、構わない。 ナミのことさえなければ。 兎も角、サンジには、なによりもまずナミの幸せが最優先事項だった。 サンジの思考が横に逸れているうちに、ゾロが足を踏み出した。 今まで椅子に座り、動く事のなかったゾロが歩き出す。 何も言わず、部屋を後にするのかと思いきや、その足先はサンジに向かっていた。 「どうした、ゾロ・・・。」 突然の行動に訳を聞こうとした先、今度はゾロの目がサンジを捕らえていることに気が付いた。 まさか、・・・・とサンジは思う。 それはありえねぇ、と心の中で呟く。 それなのに。 ゾロの行動が嫌な予感を呼び起こす。 短い距離なのに、コツコツと響く足音は長い時間響いていたような気がした。 そして。 嫌な予感そのままに、ピタリとサンジの前に爪先が止まった。 ゴクリと唾を飲み込んだのは、サンジだったのか、ゾロだったのか。それとも、ナミが二人を見て、のことなのか。 「てめぇに惚れている。」 ゾロが凶悪な声音でサンジに告げた。 それは静かではあったが、逆に脅迫されているようだと、サンジは思った。 「本当は言うつもりは、まったくなかった。てめぇとずっと一緒に旅をして、お互いの夢を叶えて見届けて。」 一度、口を閉ざし、俯く。想像だにしなかったゾロのセリフに、様子に、こいつは誰だとサンジの脳は問う。 まるでいつもの強気で、自信たっぷりの剣士に見えない。 見た目はいつもと変わらないのに、声音もいつもと変わらないのに。 恋の駆け引きどころか、相手に告白することすら縁のなかった、臆病な男にさえ見える。 それでも、その臆病な凶悪男は、言葉を続ける。 「それで、いつか離れてしまうことがあったとしても。一緒に旅をして過した日々を糧に生きていこうと決めていた。・・・・こんなことが無ければ。」 これは冗談ではない、とゾロが言う。 冗談であるわけがない。ナミの告白を聞いてすぐのことだ。揄ことすらできない。 サンジは軽く目を瞑ると、ゆっくりと煙を吐いた。 ルフィじゃなかったのか、とサンジは驚愕した。 顔に表すことは極力押さえたが、何よりも驚いた。相手がチョッパーだと言われることより驚いたのかもしれない。 ゾロの言葉によって、漸くナミの告白にゾロが答えた時、自分を見た意味を理解した。 ナミはわかっていると言っていた。自分達を前に涙したのも納得した。 サンジは。 ゾロのことは嫌いではない。どちらかと聞かれたら、迷わず『好きだ』と答えるだろう。 だがその好きは、サンジは自分としては仲間だからだと思っている。常日頃はケンカばかりで仲が悪いようにも見えるが、本当に仲が悪いわけではない。 ゾロのことは。 仲間として一緒に戦い、また、信頼しているのだ。 一緒に戦っていて、打ち合わせしたわけでもないのにコンビネーションが上手くいくこともある。意気投合して酒を交わすこともある。今夜のように夜遅く二人して飲み明かす事もある。 が、しかし、それは決して恋愛感情から来る接し方ではないと思っている。 どうしたものか。 サンジは考えた。 これが、もしナミが関係していなかったら、ゾロの気持ちを受けたのだろうか。 それも想像してみる。 自分は自他共に認める女好きだ。だからといって誰彼構わず手を出すわけではない。一緒にお茶を、と声を掛けることは多いが、やたらと手を出すわけではない。 だからといって、男好きでないことには自信があるし、誰もがサンジのことをそう理解しているほどに男には厳しくそっけなく接している。 とはいえ、男同士の関係も否定するつもりも無い。先に考えた通り、ルフィとゾロがそういった関係になったとしてもそれを認めることは出来ると思っている。 実際には、相手がルフィではなく、自分だっただけなのだが・・・。 そうやって考えると。 想像するのは難しかったが、それでも不思議とゾロが自分に手を出したといって、嫌いになるとは思えなかった。それは、何処から来る感情なのかは今は解らないが、それでもゾロを嫌う理由として物足りないような気がした。 ということは、ゾロのことを恋愛感情を含んだ意味で好きなのだろうか。ただ単に自分の感情に気が付いていないだけなのだろうか。 すぐに答えが出るものではなかった。 「ゾロ・・・・・。」 気が付かないだけでかなり緊張しているのか、声が掠れていた。 「俺は・・・。」 後に続く言葉が見つからない。今度はサンジからゾロへ、返事をしなければならないのに。しかも、ナミが不幸になるような返事はいけない、と半分パニックの頭でも思う。 兎に角、断りの返事を返さないと・・・、と口を開きかけたその時。 「言わなくていい。」 意外にも、ゾロの方からサンジの答えを声にした。 「お前の返事は、わかっている。お前の本心がどこにあろうと、ナミのことを最優先するお前だ。口にしなくても答えはわかっている。」 「ゾロ・・・。」 呆然とするサンジと只管二人を見詰めているナミを残して、ゾロはラウンジを出ようと踵を返した。 言葉にならなかった返事を先に言葉にされて、サンジからはもうゾロに何も言う事ができなかった。 「悪かったな・・・。」 サンジに向けたのか、ナミに向けた言葉だったのか、それとも二人に向けてだったのか、そう言い残してゾロは、ラウンジのドアを静かに閉めた。 |
06.08.10
まだ爽やか・・・・?