永遠の思いはあるのか7




ナミがゾロに告白し。
ゾロがサンジに告白し。
サンジは誰にも思いを伝えることなく、そして自分の気持ちがはっきりとわからないまま1ヶ月が過ぎた。


あっという間であったような、長かったようでもあった1ヶ月。
船はその間に2度島に立ち寄った。



ゾロとサンジ、そしてナミの関係は、表面では普段通りしていたので当事者以外に気が付いた者はいなかった。いや、気が付いても何も言わなかっただけなのかもしれない。
が、実際はやはり想像した通り、お互いの関係がギクシャクしたものへと変わっていった。

まずは、夜のゾロとサンジの酒盛りがなくなり。
故意にだろうか、それとも自然にだろうか、いつの間にか夜はゾロとナミが酒を酌み交わすようになった。それは、元々お互い酒豪なのだから別段変化があったと捕らえることもないように思えたが、関係がおかしくなる以前の頃に比べるとほとんどなかったナミとゾロの酒盛りが頻度がかなり増えたようにサンジには感じられた。
その実、ゾロとしては、サンジも一緒にと思ってはいたのだが、ゾロもそれを口にすることがなかったので、サンジにはわからない。ただナミはそのゾロの視線には気がついているようだが、あえて口にしなかった。
サンジはそんな二人につまみを作るが、つまみを作り終えるとさり気なく姿を消し、二人と一緒に酒を酌み交わすことはしなかった。





しかし、ゾロもとうとう痺れを切らしたようで。

「おい、クソコック・・・。」

その日は、甲板で飲んでいた。
サンジは、ナミに「つまみを追加するね。」と言い、ラウンジへの階段を上がるところだった。
そこへゾロが声を掛けた。

「なんだ?」

後を振り返ることもなく、サンジは答える。
ゾロはここ最近、まともにサンジの顔を見ていないと改めて感じていた。

「今日はお前も一緒に飲め。」
「それよか、つまみが先だろう・・・。」

そう答えると再度階段を上りだすサンジの腕を掴んだ。

「逃げるな!」
「なんだと!!」


久しぶりだな・・・・。


くるりと振り返り、目に入ったその表情に目を細める。
眉間に皺を寄せ、下がりぎみの目を吊り上げるその表情はゾロのよく見知った顔だった。
らしいその顔につい、ゾロの口端が上がる。

「何笑ってやがる、気持ち悪りぃ・・・。」

声音は怒りのトーンそのままにちょっと表情が崩れる。
それがまた意表をついてゾロは妙に嬉しくなってしまった。クククと声が漏れる。それは相手を嘲笑したものではなく、穏やかさを含んだものだった。
嬉しそうに笑うゾロにサンジは大きくため息を吐いた。

「てめぇで仕掛けといて笑うのかよ・・・。」
「あぁ・・・・悪りぃ悪りぃ・・・。」

先ほどはケンカを始めんばかりと思われた空気が和らいだ。こんなやりとりはほんのちょっと前ではよくやっていたことなのに、遠い昔だったような気さえする。
そうだ、ついこの間まで、こんな風にお互いやりとりできていたのだ。
が、言いたいことがある今、穏やかに話せるものではないことを思い出す。
ゾロは改めてサンジに向き合う。

「俺はナミを避けてはいない。あいつと恋仲になるつもりはないが、仲間であることには変わりねぇ。こうやって誘いがあれば、断る理由が無い限り、一緒に酒を酌み交わす。ナミは・・・・確かに今までとは明らかに態度が違うかもしれねぇが、そこは注意した。すぐには戻れないかもしれないが、努力するとは言った。だから、お前も俺を避けるな。現実から逃げるんじゃねぇ。」
「・・・・。」
「俺は返事が欲しいと言った覚えはないし、てめぇが俺のことを嫌おうが、・・・・・構わねぇ。ただ、俺を避けるな。今まで通りにして欲しい。」
「ゾロ・・・。」
「俺から逃げないでくれ。」

思っていない話にサンジが俯く。
どう答えようか、考えあぐねていると、別の視線を感じた。サンジがふと顔を上げると遠くから二人を見つめているナミと目があった。
サンジを見つめるナミからは、怒りと哀しみが窺えた。


確かにすれ違いばかりの告白劇のあと、ナミはサンジに宣戦布告をした。ゾロを諦めないと、サンジに伝えた。
自分の気持ちがわからないサンジには、ただ「はい。」と答えることしかできなかったが。
サンジからゾロを奪うと意気込んでいたナミだが、それでも卑怯な真似は決してしなかった。

だからきっと、サンジも一緒に酒を飲もうと席を共にすれば、決して反対はしないはず。いっそのこと、ゾロを挟んで久しぶりにサンジと笑いあえたかもしれない。
今までと同じ態度で接するように努力すると言っている以上、ナミはその努力を惜しまないはずだ。

細かく突っ込めば、ナミも今まで同様の態度には戻れて居ないが、サンジが普通に接すれば、きっとナミだって普通に接する事ができたのではないだろうか、と思えるほどに。
ゾロが指摘するとおり、あの告白劇のあと、一番態度が変わったのは紛れもなくサンジだった。



「わかった・・・・。すでに下ごしらえは済んでいるんだ。そのつまみを作り終えたら、一緒に飲むよ。」

ポツリ、と溢したようにしか答えられなかったが、それでもゾロが訴える事は間違ってはいないと思うので、努力するように努める、と伝えた。
サンジが返した言葉に満足したゾロは、普段のゾロからは想像もつかないような笑みを浮かべた。
サンジが思わずうっかりと見惚れてしまうほどの笑顔だった。


















そうして、少しずつではあるが、以前の何もなかった、皆仲間だと信じて疑わない頃に戻れたような気がサンジにはした。
以前同様とまではいかないまでも、もはや一緒に酒を飲むこともできないと思っていたのが、できるようになった。


ナミを優しく抱くゾロを見るまでは。









サンジは隙間なくくっついている二人を遠く物陰から見てしまい、まるで覗き見をしているようだ、と顔を赤らめた。気分は犯罪者に近い。
が、それ以上にナミが以前言っていた言葉を思い出す。



「サンジくんは、気が付いていないのね、自分の気持ちに・・・。」






あぁ、俺はゾロのことが好きだったのか。













どうして今まで気が付かなかったのだろうか、と笑ってしまう自分に嫌気が差した。
サンジは考えたはずだ。

ナミと一緒にいるゾロを。
ナミにキスをするゾロを。
ナミを抱くゾロを。

硬く結ばれる二人を想像したときは、なんとも思わなかったはずだ。
いや、それ以上に幸せな二人を祝福したいとさえ思ったはずだ。

なのに、抱き合う二人を目の前に見て、胸がズキリと痛んだ。

今まではあくまでサンジの想像の範疇で、本当に二人が抱き合うところを見たことがなかった。
口では二人の幸せを願うといいながら、幸せに寄り添う二人を見たことがなかった。
サンジの想像はあくまで想像であって、全てが現実ではなかったのだ。



が、現実を目の当たりにして。
そして、漸くサンジは気が付いたのだ。



ゾロが好きなことに。






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06.09.11

一ヶ月ぶりで進展がこれだけ?(いや、時間の経過は一緒ということで・・・。)