永遠の思いはあるのか8




深夜のラウンジの窓からは、まだ明りが消されることはなかった。
が、物質的な明りとは別に、まわりの海と同調するほどの静けさが漂っている。


その晩、不寝番である者は今ラウンジにいるため、見張り台には誰もいない。襲撃があったらどうするんだ、と突っ込みたくもなるが、満月ということもある。こんな明るい晩に敵船に船を寄せようというバカはまずいないだろう。
だからなのか。
その不寝番は、酒まで飲んでいた。






「はぁ〜〜〜〜〜あぁ〜〜〜。」

カランと氷が音を立てて崩れ落ち、グラスの中身が空っぽなのを教えてくれた。
ため息と共に吐かれた煙はゆらゆらと天井に向かって消えて行く。

「俺って・・・・バカだよなぁ〜〜〜〜〜。」

ポツリと呟くと、グラスの氷に酒を上からかけた。

「そっか〜〜〜〜〜〜〜。好きだったのは、ナミさんじゃなく、ゾロだったのかぁ〜〜〜〜。」

ほんの少しだけ、勢いでグラスから酒が零れた。結構いい値だったので、もったいない、と思うがそのまま。

「なんで気が付いちゃったんだかな〜〜〜〜。俺って本当にバカ・・・・。」

先ほどからかなりの量を飲んでいるわりには酔いを感じないため、なみなみと注がれた酒を今度は溢さずに口に運んだ。
酒飲み連中が見たら「自分ばっかりずるいじゃねぇか。」と怒られそうなほどには飲んでいるだろう。今、手にしているビンの横には、すでに空になったビンが数本転がっている。この船の酒豪共に比べれば弱いながらも人並み以上に酒に強いサンジでもこれは酔わないのが不思議なほどの量だ。
しかも、どれもこれもサンジがお勧めと称してあげている、ちょっといい品ばかりだった。


眼を瞑ると昼間の光景が瞼の裏に蘇えった。





あれは好きあっている者同士が行う行為だ。
ぴったりとくっついていて。
男の腕が女の肩と腰に回っていて。
女の手は、男の胸に添えられていて。
時が止まってように、お互い暫くそうしていて。
キスでもするのかと思った。

見ていられなくて二人がいた後甲板が見えない位置へと踵を返した。サンジはその後、二人がキスをする場面を見たわけではないが、きっとそのままの流れで考えればキスでも交わしたことだろう。
が、キスの場面を見なくても、抱き合う二人を見ただけで、胸の内で疼き出した痛みはなかなか治まらなかった。チョッパーに言わせれば脈も速くなっていたことだろう。
抱き合うという現実を目の当たりにして、漸く自覚した思い。


「ナミさんのことを好きだったのなら良かったのにな〜〜〜。」


グシリと目尻に浮かんだ涙を拭う。

ナミを好きだと勘違いしていれば良かったとサンジは思う。
どんな女性よりも苦労をしてきた少女時代。その苦労から開放された今、卑屈になることもなく、悲劇の主人公のように哀しみをひけかすこともせず、ただ只管真っ直ぐに夢を見つめる瞳。
女性であるがゆえに支えてあげなければならないことも多々ある旅の中、それでも仲間として、皆と一緒に戦い、勝ち抜いていく強さ。
女神と讃えて余りある女性。こんな素晴らしい女性はサンジは今まで見たことがなかった。
はずなのに・・・・。
それがどういうことか、ナミではなく、ゾロの方に惚れていることに気が付いてしまった。

抱き合う二人を見て胸が痛むだけなら、どちらが好きなのかなんてはっきりとわかるわけないじゃないか、と自分に突っ込みを入れたかったが、生憎、ゾロの方が好きだとわかるほどにナミに対して怒りを感じた。いや、正確に言えば、怒りというのは、語弊があるだろうか、嫉妬という言い方の方が正しいだろう。

ナミが素晴らしい女神のような女性であるならば、ゾロもそれに負けないくらいに尊敬に値する男だと思っている。もちろん、それは口にはしないが。
大剣豪になるために努力を惜しまないだけでなく、実際にその実力も備わっていて。
血に濡れた道を選ぶだけの覚悟をすでに持っていて。かといって、闘神のような強さを持つわりに慈悲がないわけではない。仲間に対する信頼も想いも強く。
サンジとは辿る道は違うが、同じ男として、仲間として、一緒の船で旅をすることに誇りを持っていた。
尊敬だけでなく、憧れる部分もあるだろう。

憧れが、恋に・・・・・ってか?

女性のように結婚とか、子どもを作るとか、そういったことは想像できないのだが、ゾロとずっと一緒に肩を並べていたいと思う。
いや、以前告白劇の時に想像した通り、自分とゾロが身体を重ねることを想像するだけでなく、そうなっても構わないほどに、惚れているのだろう。


ゾロと自分が・・・・・。

はぁ・・・・・と小さく息を吐いた。

嫌なだけでなく、むしろそうしたい?
昼間ナミがそうしていたように、自分もゾロの胸に顔を埋めたい。腰を抱いて欲しい・・・?

自覚したとたん、弾けた想いは弱まるどころか、強くなりつつあるらしい。
ふ、と気が付けば、股間に窮屈さを感じた。
恐る恐る下半身を覗き見る。
はちきれんばかりに膨らんだその部分は、そのままにしていても収まるとは到底思えないほどに自己主張していた。

「俺・・・・・・って・・・。マジ??」

ええ〜〜〜〜〜〜っと内心叫びたかったが、今は皆が寝静まっている。騒ぐわけにはいかない。
顔を手で覆って俯いた。
冷や汗が額を流れる。

ええいっ!!と、崖を飛び降りる気持ちでサンジは瞳を閉じた。

ゾロを想い、そっと手を下に沿わせた。
溢れる気持ちは止まることなく、サンジの身体をも止めさせる事はできなかった。
ゆっくりとファスナーを下ろしていき。



「ゾロ・・・・・ッ!!」


サンジは、小さくゾロの名前を呟いた。













己の身体は開放はしたけれど。

それでも。

自覚した想いは強くなるばかりだけれど。


それでもサンジは眼を閉じた。




「ナミさんに罵られようと、どれだけ自覚しようが、やっぱ、俺は自分の気持ちは口に出せねぇよ・・・。ごめん・・・。」


誰にだかわからないままサンジは謝った。






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06.09.13

何も考えずに突っ走っている私・・・。矛盾だらけだろうな〜。(←読み返せよ!)