過去と今と未来と2−8



注意!
この先、女性に対する乱暴な表現があります。
酷くならないようにしたつもりです、が、話の展開上そういった内容に突入します。
ご了承ください。
嫌悪される方は、申し訳ありませんが、お戻り下さい。
ここを読まずに次に進んでもわかるようにしてあります。
大丈夫だ、という方のみこの下へお進みください。
(苦情は一切なしの方向でお願いします。)





























どれくらい走っただろうか。

サンジは、指定場所になっている海の見える倉庫街に来ていた。
辺りはシンと不気味なほど静まり返っている。自分の足音しか響かない。あたり一面真っ暗で、立っている外套も壊れているのだろう、明りが点いたのが一つもない。
出かけに常連客のラルクが注意しろと言っていたのを今更ながらに思い出す。
この倉庫街は今は使われていないと言っていた。今はサンジがお世話になっているイネストロの店の近くの波止場が、この無人になってしまった替わりを果たしていると言っていた。だからこそ、店の周りは活気付き、夜も人手が多いのだ、と改めて納得した。


サンジは回りを見回し、そのまま空を見上げた。大きな月が欠けた状態で逆にサンジを見下ろしていた。
フッ、と息を吐いた。
こんな寂れた所にマリアが囚われていて。薄汚れた連中に囲まれて。さぞや怯えているだろうと思うと、胸が締め付けられた。

「俺のせいだ・・・。」

ポツリと溢したセリフに己の浅はかさを呪った。

身体が勝手に反応したとはいえ、ああも簡単に相手を伸してしまった事に自分ながらに驚いてしまったが、言い訳にしかならないだろう。
自分の本来持っている力、力量を知らずに、ただただ己の思うままに身体を動かしたようなものだ。
あの場合、相手の言いなりになるつもりもなかったのだが、それでも自重しなければならない部分もあったのではないか。
店でイネストロに言ったセリフの通り、自分が蒔いた種は自分で摘まなけらばならないが、それにマリアを巻き込んでしまった。

サンジは髪を掻き毟りたい衝動を耐え、とりあえず今はマリアを助けるべく、指定場所に向かうしかなかった。















慣れない場所だったため、多少迷ってしまったが、漸く紙に書かれた場所に辿り着く。

「9番倉庫・・・・。ここか。」

やはり寂れて使い物にならなくなっただろう、大きな箱型の建物の前に立つ。
眼前にある大きな扉は、これもまた動くのだろうか不安になりそうなほどに錆付いている。取っ手にかかっていた南京錠が壊れているのは奴等の仕業だろうか。ここにいるのは間違いないとサンジは踏んだ。

ギギギ・・・・・

耳に痛い音を連れて、開き戸を開ける。見た目よりは力を掛けなくても開いた。自分が通れる幅だけを開けて、一歩踏み出す。
前は外以上に暗く、足元さえわからない。

「チクショウ・・・。何も見えやしない・・・。」

どうしたものか、と眼を凝らすが、奥へと続く闇はだからと言って変わることは無かった。
明りはないだろうか、とポケットを弄る。
と、スーツの上着の胸ポケットの底に触れるものがあった。

「・・・?」

出してみると、それはライターだった。

「ありがてぇ・・・。って、俺、もともとライターなんて持ってたんだ・・・。」

この島に流れ着いた時に着ていたスーツを着てきてしまった。何故かは自分にもわからないが、つい手を伸ばしてしまった。店を手伝うようになってからはまったくと言っていいほど着ていないかったのに、何故かここに来るのにいつも羽織っているジャケットを羽織らずにこのスーツの上着を手にしてしまった。
まぁ、そのおかげでライターを手にすることができたのだが・・・。

「まぁいい・・・。とりあえず、これでなんとかなるだろう。」

呟いて、ライターの火をつける。
カチッと音と共に仄かだが明るさを得ることができた。

小さな明りを頼りにサンジは足を進めた。時々、爪先に当たるのは、昔ここを引き払う時に片付け忘れられたものなのか、それとも、今ここを呼び出し場所にしている彼らのように潜り込んだ連中が置いていったものなのかわからないが、酒瓶の破片や、空き缶、ボロボロの麻袋など様々だ。明りが点けば、きっとこのような場所の定番とも云える壁の落書きもあるのだろう。
あちこちに散らかっているガラクタに転ばないように気をつけながら、闇の先へ先へと向かう。
見た目以上に広い倉庫だとため息を吐いた瞬間、どこからか、叫び声が聞こえた。


マリア・・・!!!


サンジは、転ぶのも構わず走り出した、明りが小さいさめ、回りを見分ける暇がない。が、そんなことを気にしている場合ではなかった。
広い格納場所の突き当たりに通路を見つけ、先へと走る。その両脇に扉がいつくもあったが、この何処かにマリアがいるのだろうと、すぐに予想された。
順にバタンバタンと扉をあけ、ライターを翳す。しっかりと中を確認するには心許ないが、無いよりマシだ。人がいるかどうかだけでもわかる。
いくつ目の部屋の扉を開けたときだろうか。再度、悲鳴が聞こえた。今度は、もっと近くからだ。
どこだ、と通路の奥へ眼を凝らす。
と、遠くにほんのりと明りが見えた。

あそこか!!


扉の隙間から照明の光がもれているのだろう。
サンジはその小さな明りに向かい、ダッシュした。


















「いやあぁぁぁぁ!!!!」


首を振り、泣き叫ぶマリアにジョーは上から見下ろしながらニヤニヤと笑っていた。

「もうすぐお前の大事な男が来る・・・。が、こんな所を見ちゃあ、どうかな・・・・?」

両手を縛られて、足は二人の男に押さえられている。
小麦粉でも入っているのだろうか。汚れた麻袋の山に、凭れかかった状態押さえ込まれている。
大きく押さえられた足は大きく広げら、ヒラヒラと綺麗な弧を描いて舞っていたスカートの布は捲り上げられ、霰もない状態だった。
胸元の方も、下着ごと破かれたのだろう、服だったものがただの布切れになっており、豊かな胸がその先端まで男達の視線に晒されていた。

「俺様を侮辱したバツは当然受けなきゃいけないからな・・・。」

ペロリと舌なめずりする音がマリアの耳に届いた。

「いや・・・・。」

震える声がさらに男を煽る。

「大事な大事な恋人を目の前で犯された男は、どんな反応をするんだろうな・・・・。楽しみだぜ?もうすぐここに着くはずだ。それまで俺が可愛がっていやる・・・。」
「アニキ・・・・早くしてくれ・・・。でないと、俺達の分の時間がなくなっちまう・・・。」

両側でマリアの足を捕まえているのは、ジョーの部下なのだろう。一人は先ほど店で忘れ物をした男だった。最初から計画的犯行だったのだ。
マリアは悔しさと恐ろしさで涙が零れた。
部下がたった二人しか居ないのはその男の力量もわかるというものだが、か弱いマリアには二人どころか一人でもどうする事も出来ない。
バタバタ足をバタつかせてみるが、びくともしなかった。

「いやぁ・・・。お願い!・・・たすけて・・・・・。」

ヒヒヒと厭らしい笑みを張り付かせてジョーはマリアの豊満な胸に舌を這わせた。
マリアの身体が嫌悪に震える。

「もしかして、男に抱かれるのは初めてか?こりゃあいい・・・・。優しくしてやるよ。」

言葉とは裏腹に、涎を垂らさんばかりの男はマリアの上に勢いよく覆いかぶさる。

「いやいやいやああああっっっ!!!!」

何とかして逃れようとするが、敵うわけがない。マリアを両側から押さえている男達も余裕で厭らしい顔で興奮していた。
マリアの身体に汚らしい涎がダラダラと胸の曲線に沿って垂れていく。
ほどよく脂肪のついた太腿にも男の手が廻されツツツと撫でられて寒気が走るが、こちらも段々マリアの秘部へと向かっていった。
ただただマリアは泣き叫ぶしかなかった。頬が涙で濡れていく。それは男達をさらなる劣情に駆り立てるだけだ。


「ヒッ!」

下着の上に何か当たるものを感じ、マリアが眼を向けると、いつの間にジッパーを降ろしたのか、男の汚らわしいモノが覗いていた。
それを認めたとたん、下着をものすごい勢いで、破られた。

「やあっっ!!!!」

誰にも触れられたことのない、誰にも見せたことのない部分に恐ろしいものが当てられる。

「愛しい愛しい彼氏の名は確か・・・・サンジと言ったな。呼べばいい。間に合えばいいけどな・・・。その前に俺がお前を女にしてやるよ。」

ペロリと舌なめずりして、ジョーは身体を降ろす。両脇にいる部下も興奮の絶頂だった。
マリアは、ブルブルと怯えて眼を瞑るしかなかった。

「たすけてぇぇぇ!!!・・・・いやああああああ!!!!」

無理矢理のため上手く入らないソレをジョーは強引に押し進めた。メリメリと音がしたように感じた。
泣き叫ぶマリアに男達が歓喜の声を上げる。









快楽の余韻でジョーがうっとりとしていると、突然背後から大きな音が響いた。

バタン!!

慌ててジョーが後を振り返ると、あったはずの扉はなくなっており、そこには待ちわびていた男が立っていた。
一瞬の静けさを引き起こすが、それはやはり一瞬のことで。
部屋の入り口に立つ男をサンジと認めたとたん、タイムリミットだとでもいうようにジョーが笑い声を上げた。

「一足遅かったな・・・・色男さんよぉ。大事な大事な彼女は、もう俺様の手でりっぱな女にしてやったぜ?残念だったな、先越されてよ。」

セリフを吐き終えてから、ゆっくりとマリアの上から退くジョーにサンジは全てを理解する。
ジョーの下で放心状態で横たわるのは確かに先ほどまで一緒に店で時を過していたマリアだ。
聖母のような微笑で、行き倒れていたサンジを介抱し、癒し、時には記憶が戻らないと落ち込むサンジを慰めて、また明るい表情で楽しませてくれたマリアだ。
それが、目の前の汚らしい男の汚らしい液に塗れている。
マリアはサンジに気が付かないのか、ピクリともしない。
その両脇の男達はジョーの部下なのだろうか、やはりジョー同様にニヤニヤと厭らしい笑みを溢していた。



サンジは、くわっと目を見開いた。
瞬間、ジョーに向かい飛び出そうとする。が、それをまたジョーのセリフがサンジを留めた。

「動くなっ!動くと、この女はこれだけでは済まなくなるぞ。」

一瞬、サンジの動きが止まる。
サンジの昼間の俊敏な動きを承知しているのだろう。いつの間にか、マリアの両脇にいる男の一人が、マリアの喉に鋭い刃を翳していた。血が喉元からプツリと浮かび上がる。
先ほどまで店で食事をした男だ。さっきまで一緒に店内で穏やかな空気を共有していたのに、その正体がこんな薄汚れた連中の一人だったとは・・・。
悔しくて仕方が無い。
サンジは歯軋りをした。ギリリと噛み締める口が痛い。

「さて・・・・・。お前はどうしようかな・・・・。」

余裕を持って、サンジの前に歩みだす男はこれ以上ない笑いを耐えることなく晒す。

「お前は大勢の前で俺に恥を掻かせたからなぁ〜〜〜〜〜。やっぱ、死んでもらうしかないかな〜〜〜〜。」

喜々としてサンジを舐めるように見上げる男にサンジは目を逸らさずに言う。

「俺を殺したいのなら、それでもいい・・・・。だが、マリアを解放してくれ・・・。」

素直にジョーの言う事を聞くというサンジにジョーは面白くない。

「じゃあ、死んでもらおうか・・・。と、その前にもういっちょう、ショーを見せてやりたいなぁ。」
「なに・・・?」
「俺の部下達もこの可憐なお嬢さんに相手をしてもらいたいそうだ・・・。」

ジョーはやはり、厭らしい笑みを止めなかった。
薄汚い男の思惑がすぐにわかったサンジがはっとする。
ジョーが顎をしゃくるとそれを合図にマリアの両脇にいた部下の一人が先に動き出した。もう一人は、喉に当てた刃を微動だにさせることなく、サンジを威嚇したままだ。
己の欲望を早く満たしたいという現れか、すぐに男が覆いかぶさる。

「待てっ!」

サンジの声はまるで聞こえていないとでもいうように男がマリアに手を伸ばした。
放心状態だったマリアがそれに気がつき、「ヒッ!」と声を上げ、すぐに恐慌状態に陥った。

「やあああっっ!!助けてぇぇ!!サンジィィィィッッ!」

泣き叫び、己の名前を呼ぶ大切な女性の悲鳴にサンジの血管がプツリと切れた。
突然、マリアが叫び喚いたのに驚いたせいか、悲鳴と同時に向けられていたナイフもわずかに外れる。
その瞬間をサンジは見逃さなかった。いや、怒りのせいでナイフが外れてなくても行動に移したかもしれない。

バキィィィ

もの凄い破壊力でもってジョーが吹き飛んだ。それはあまりに素早くて、一体何が起こったのか、部下達には気づく暇もなかった。
昼間、ジョーが倒された瞬間を見ていなくともそのスピードは昼間よりも格段に上がっているのを納得せざるを得ないほどの早さだった。
ジョーが壁に激突する衝撃音で初めてジョーがサンジにやられたことを部下達は知った。
いや、それよりもサンジが部下を蹴り飛ばした瞬間の方が早かったのだろう。ジョー同様に蹴り倒され、壁にのめり込む身体を認識して、初めてジョーも自分も蹴られたのだとわかった。
サンジは瞬く間に部下二人ともを倒した。
誰一人ピクリともしなかった。

人質は意味があったのだろうか、と思えるほどあっけない幕切れ。



しかし・・・・・・。






結果としてサンジを倒す事はできなかった人質作戦だったが、逆恨みというジョーの復讐はある意味果たせたのではないか、とサンジは顔を下げた。

目の前には怯えて自分だとわからずに後ずさりする大切な女性がいる。
途中殴られたりもしたのだろう。頬は赤く腫れ、唇から血が滲んでいた。纏っているのはただの布切れに変わり果て、間から覗く胸元は男達の涎なのだろうか、卑猥に濡れていた。足元の方も、目を背けたくなるほど男達の欲望に穢されていてやはりそこも血が滲んでいた。

「マリ・・・・ア・・・・。」

サンジがそっと声を掛ける。が、それには応えずにただただガタガタと震えて小さく「助けて」を繰り返すばかりだった。
手を指し伸ばすが、身体全体で拒否され、後退る。

「マリア・・・。マリア、マリア。」

サンジの方も、マリアの正気が戻るように何度も声を呼ぶ。
どうしたら自分をサンジだとわかってくれるのか。
そして、どうしたらこの惨劇を取り消す事ができるのか。
わからなかった。
あまりに悔しくて悔しくて。
愛しい人を守ることができなくて、間に合うことができなくて・・・・。
サンジは涙を溢した。

ポタリと一粒、涙がマリアの頬に落ち、まるでマリアの涙のように流れ落ちた。
その瞬間、怯えの表情しか見せなかったマリアの震えが止まる。涙の元を辿る為に顔を上げた。サンジを認めたとたん、凍りついたように動かなくなってしまったマリアにサンジは涙を溢しながら凝視した。
再会した瞬間に怯えて逃げて、抱きしめることもできなかった小さな身体にもう一度手を伸ばす。今度は拒否されなかった。
ゆっくりとゆっくりと大切なものを壊さないように優しく手を廻す。
お互いに見つめあい、目を逸らさずに近づく。

漸くマリアの目の焦点があった。

「あ・・・・・・。」

マリアの口からしっかりとした音が発せられた。

「マリア・・・・・・、俺がわかるか?」

頬を両手で掴み込み、自分の顔だけを見つめるように顔を近づけた。

「サ・・・・・・ンジ?」
「そう、マリア。来たよ。」
「サンジィ・・・。」
「ごめんね、マリア。待たせたね。」

謝るサンジの言葉にマリアの脳が先ほどの恐怖の出来事を思い起こさせた。
ポロポロと涙を溢す。後から後から涙が溢れて止まらない。

「サンジ・・・サンジ・・・・サンジッッッ!!!」

ギュッとサンジに縋りつき、只管泣く大事な女性にサンジも抱きしめ返すことしかできなかった。
























暫く泣いて落ち着いたのか、マリアが抱きつく力を弱めた。
それを機にサンジは着ていたスーツの上着を脱ぎ、マリアに着せる。
まだ涙は枯れずに流れていたが、それでもいつまででもここにいるわけにはいかない。ジョー達は倒れたままだが、この場所にマリアをいつまででも置いておくのは酷だ。
縛られた腕の縄は解かれ、サンジに支えられてマリアは立ち上がる。が、体中に感じる痛みにふらつく。サンジは慌ててマリアを抱き上げた。

「帰ろう、親父さんが待っている。」
「でも・・・。」

マリアが口篭るもの無理は無い。マリアの様子を見れば一目で何があったのかわかってしまう。
サンジは一度ギュッとマリアを抱く腕に力を込めると、そっとマリアに聞こえるか聞こえないかわからないほどの小さな声で呟いた。

「君は汚れちゃいない。綺麗なままだ。何も無かったんだ。ね。」
「う・・・ん。」
「でも・・・・・・、親父さんには、俺が謝る。君を無事に連れ戻す約束をした手前、約束が守られたとは親父さんは到底思ってくれないだろう。謝って済む問題ではないのはわかっているけど。」
「サンジ・・・。」
「店を追い出されても仕方が無い。全ての責任は取る。」
「・・・・。」

サンジの決意は固いのか、マリアを見つめる瞳の優しさの中にある別のものが宿っているような気がした。

マリアは目を閉じた。
目を閉じると先ほどのジョーの厭らしい笑みと笑い声、汚らしい涎におぞましいモノの記憶が蘇ってくる。身体が震える。
それでも。
サンジは。
マリアのことは綺麗だと、何も汚されていない、とサンジは言ってくれる。
それだけで、自分は穢されていない、と思えるような気がした。
でも、サンジは父親に謝ると言ってもいる。
ケジメをつけるべく店を出て行く気配も匂わせた。

確かに、マリアとしても暫くは立ち上がれない程にショックだ。
「もうお嫁に行けない!」と泣き叫びたい程どころではないほどに衝撃を受けた。嫌悪も感じる。
それでも、だからといってサンジが店を止めたら、今受けた衝撃以上にショックだろう。


それにジョーの匂いをいつまでも身体に残すのも気持ち悪い。




マリアは抱き上げてくれるサンジの腕に手を添えた。

「サンジ・・・・。」
「どうした?マリア。」
「家には帰らないで。」

まだ涙の跡は乾ききらない頬は赤みを帯びていた。

「責任、取ってくれるんでしょう?」
「当たり前だ。」
「だったら・・・・。」

マリアは一度目を瞑り、ゴクリと唾を飲み込んだ。
女性からこんなことを言うのは憚れたが、それでもすでにサンジには全てを見られたのだ。今更だ、と開き直る勇気を絞り出した。

「このままどこか宿に連れて行って。」
「マリア!」
「・・・・・・抱いて、私を・・・。」

ギュッとサンジの腕を掴む手に力が入る。

「私のこと、穢れた女だと思ったらこのまま私をここに置いて家から出て行って。私のこと、嫌いでも・・・・。でも、ほんの少しでも私のこと好きでいてくれて、私のことを穢れていないって言ってくれるのなら、お願い!私を抱いて!!」

新たにポロポロと涙がマリアの瞼から溢れてきた。

「貴方の『責任を取る』って言う言葉に縋りつくずるい女かもしれない。でも・・・お願い、貴方に抱かれてあの男の汚いものを全て流したいの!」

一度は落ち着いたと思っていたマリアの身体はまたブルブルと震えている。当たり前だ、つい今のことなのだから、落ち着けるはずがない。
例え冷めやらない興奮からきているものだとしても、マリアの言葉は本当に望んでいる事なのだろう。
マリアの強気な言葉とは逆に、怯えて震える小動物のようなか弱い女性をサンジはこれ以上傷つけたくなかった。
況してや好意を持っているのは自分も同様だ。
抱く事でこの大事な女性の傷が癒されるのなら、いくらでも抱いてやろう、とサンジは思った。


サンジは歩きながら、そっと抱き上げているマリアにキスを落とす。
すでに倉庫を出て、家に向かって歩いていた。幸いにも人通りがなかったので見られる姿でなくとも、安心する。
空に浮かぶ月の明かりに照らされて見上げるマリアの顔は、サンジにはとても美しく見えた。

「わかった。君の気が済むまで一緒にいるよ。でも・・・・親父さんには連絡だけしておこう。心配している。」

コクリと頷き、多少安心したのか、サンジの肩に頭を寄せるマリアにサンジは愛しげに額にキスを送った。
そのままイネストロの待つ店とは反対方向にサンジは足を向けた。






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2006.11.25.




いろんな意味で痛くてすみません。m(__)m これでもサンジファンなんです。