過去と今と未来と3−8
JJから受け取った煙草を見つめて、暫く固まったようにサンジは動かなかった。 それに気づかずにJJは言葉を続けた。しかも、まるで狂気を含んだように張り叫んで・・・。 「もう、アンタの記憶があろうがなかろうが、そんな事はどうでもいい!アンタの好きなもの、何でもあげるから、ロイの遺品だったものでもあげるから!だから、許して!」 悲痛な叫びは、ゾロにも届いた。 「いつも、アンタは僕の大事な人を取り上げる。もう、止めて!モノなら何でも上げるから、僕からゾロを取り上げないで!」 半分泣き叫ぶようにJJは訴える。 JJの叫びに、サンジはずっと煙草を見つめていた顔を上げた。 言いたい事は言ったのか、JJは今度はゾロの方を向く。 最初の憮然とした態度とは裏腹に、今は泣き叫ぶ幼子のように顔をぐちゃぐちゃに歪めている。必死な様子で・・。 それは当然か。 JJからすれば、サンジよりもゾロとの話の方がよっぽど重要だ。 なんせ、ゾロとサンジが二人で夜、会っていたのだ。 それがどういった事情でか、わからない。わからないが、このままで好いわけはない。なんていっても、今のゾロの恋人はJJなのだから。 「ね、ゾロ、どうして・・・・?サンジと夜を共にしてたの?いつから?・・・・・僕が嫌いになったの?」 ゾロとしても、サンジとは決別するつもりで今夜ここに来たのだ。ならば、JJを抱きしめて、全てを話し、何もなかったと安心させてやればいい。 が、正直、煙草を手にした時のサンジの様子が気になる。 今もJJの言葉に顔を歪めているが、何だか様子が変だ。 チラリと一瞬、サンジに視線をやると、JJがそれに気が付いた。 「やっぱり・・・・僕じゃ、ダメなの?」 ハッとするとJJがゾロに縋りついている。 サンジのことがなければ、ごく普通にJJに心を奪われるだろう自分を慕うその様に、ゾロもまた顔を歪めた。 「ゾロ・・・・。」 震える手を振り解けるはずがない。 ゾロはJJを見つめると、ゆっくりとその小さな身体を抱きしめた。 JJもそれに安堵し、息を吐いてゾロに凭れ掛かる。 「JJ、心配するな。俺が好きなのは、お前だけだ。コックとは、もう関わらないように話を・・・・。」 そう言葉を紡いでサンジの方を見ると、そこに立ち尽くすサンジの様子がおかしいのに気が付いた。 「ゾロ・・・?」 一旦は、安心したJJも不審に思ったのか、顔を上げる。 ゾロの視線を訝しんで同様にその視線の先を見つめた。 そこには、明らかに様子のおかしいサンジがいた。 ガタガタと身体を震わせ、JJから渡された煙草を見つめていた。 一旦は、JJの悲痛な訴えに耳を傾けたようにも思われたのだが、JJの話はまるで聞いていなかったとばかりに煙草を凝視している。 一体どうしたことだ。 記憶が失くなる前、そして記憶を失くしてからも、しっかりとそこに存在感を持って立っていた男がまるで何かに怯えるように身体を震わせている。 ありえないくらいに。らしくないくらいに。 ゾロは、何だかこのままではヤバイような気がした。 「おいっ、チョッパーを起こせ!!コックの様子がおかしい!」 「え?」 大事な話が途中で途切れてしまったが、JJにも、不機嫌にもなろう暇すらないほどにその様子は切迫しているように思えた。 「う・・・・ぅん。」 慌てて男部屋への扉を開ける。 「うわわわぁぁぁ―――――っっっ!!」 まるで今にも殺されそうな人間の叫びが背中に届いた。 あまりの声にぎょっと振り返る。 そこには今だ震えの止まらない身体を抱きしめながら蹲るサンジにゾロが何か声を掛けて正気を戻さんとその身体を揺さぶっていた。 僕はサンジが狂うほどに酷い事を言ったの? 確かに憎くて仕方がない、殺しても構わないほどに思っていた相手だが、こうも狂気を実際に目の当たりにすると、自分のしでかしたことに多少なりとも恐怖と後悔の念が湧く。 どうしたらいいのかわからないままに慌ててチョッパーを起こそうとしたが、サンジの叫びに誰もが目を覚ましたようだった。 「どうしたんだ、何かあったのか?」 やはり船長だけあって、ルフィが緊急事態に跳ね起きた。 肝心のチョッパーも同様に、目覚めと同時に無意識にも医療バックを手にする。ウソップはどうも勘違いしたようで「敵襲か?」とパチンコを手にしている。 バタンと音がして振り返ると、倉庫から飛び出したナミ達が目に入った。 「なに?どうしたの!!」 誰もが目を覚ますほどの叫び。どれほどの恐慌がサンジに起きているのか。 JJはどうすることもできずに、ただその場に呆然と座り込むしかなかった。 「わああああぁぁぁぁ!!!!」 暴れて腕や足を床、壁にぶつけ、あまつさえ海にでも飛び込みそうな勢いは止まらない。 「抑えろ!」 誰ともなしに飛んだ指示に慌てて皆、サンジの傍に駆け寄る。 暴れだしたサンジをゾロとルフィで押さえ込み、チョッパーが急いで医療鞄を開ける。 用意した医療道具をナミとロビンが補助として手に取る。 ガンガンと振り回す腕や足の力は尋常ではないようで、サンジを押さえ込むのにルフィ達も必死だ。チョッパーがサンジの様子を見ようとするが、暴れてどうにもならない。ウソップも抑え役に回った。 「何があったかわらないけど、一旦、サンジを眠らせるから!」 そう回りに聞こえるほどの大声でチョッパーはゾロが押さえ込んでいるサンジの腕に注射針を差し込んだ。 暫く暴れるサンジを押さえ込んでいたが、やがて、動きが緩慢になってきたかと思うと、バタバタと動き回っていた腕がパタリと落ちた。と、同時にぐったりと身体全体が倒れこむ。 崩れ落ちるサンジを上手く受け止めたゾロは、チョッパーの指示によりラウンジへと静かになった体を抱き上げて運んでいった。 誰もが心配そうに見守る中、JJはずっと男部屋入り口に座り込んだままだった。 「強力な麻酔を使ったから、暫くは起きないと思う・・・・けど、一体何がサンジにあったのか・・・。」 ゾロの後ろを着いていきながらチョッパーは考え込むように呟いていた。 「JJ・・・・・何があったか、教えてちょうだい。」 誰もが、ラウンジへと入っていったかと思っていたJJに、突然、上から声が掛かった。 「・・・・え?」 ナミがいつになく真剣な眼差しで見つめている。 「ナミ・・・・さん・・・。」 どう説明しろと言うのか、「僕がサンジを狂わせた」とでも言えばいいのか・・・。JJは歪めた顔を戻す事が出来ない。 「別に貴方を責めるつもりはないの・・・。もちろん、ゾロにも話を聞くけど・・・貴方からも教えて欲しいの。一体、何があったの?こんな時間に・・・。」 確かにナミの言葉には責めの意味合いはなく、口調も冷静さを保とうとしているのが分かる。 表情も無表情を作り、怒りを見せていない。 もちろんそれらは、彼女なりに冷静を保つように努力してのことだろう。それでもきっと彼女の中には、JJとゾロに対して怒りがあるだろうことは想像しなくてもわかった。 「僕は別にサンジをあんな風に責めるつもりはなかったんだ・・・・。ただ、単にゾロを取られたくなかっただけなんだ・・・。」 ポツリと零れた言葉にナミは顔を顰める。 「・・・・なんで、僕の好きな人はみんなサンジを好きになっちゃうの?」 驚きの為に止まっていたが雫が、改めて一滴流れ落ちる。 流れ出したら後は止まらない。 ボロボロと零れる涙は後から後から溢れてくる。 「JJ・・・・・。」 「うぅ・・・っ・・・。」 拳を握り締め溢れる涙を拭うことのないJJにナミはどう声を掛けてよいかわからない。 どうしてこんなになっちゃったんだろう・・・・・。 ナミも釣られて涙が出るのを止められなかった。 暫くどうすることも出来ずに、二人して泣いているとベタリと足音がした。 この足音は船長だと二人ともすぐにわかったが、顔を上げる事ができない。 「ナミもJJもとりあえず、上、上がれ。」 「ルフィ・・・・。」 声に顔を上げるとルフィの顔はやはりいつになく真剣そのものだったが、なんだかおかしいとナミは思った。 一瞬、何が違うのか、わからなったが、じっと見つめてからすぐにその原因がわかった。 ルフィが煙草を口に咥えていたのだ。 「ルフィ・・・?その煙草・・・。」 「あぁ、これか?火は点けてないから・・・。でも、咥えたら何か味でもするかと思ってよ。」 一見ふざけている様にも見えたが、その表情は真剣で・・・。しかし、JJに対しての怒りは全く見えなかった。 JJは不思議そうにルフィを見つめることしかできない。 「JJ、確かにお前はサンジを怨んでいるけどよ、俺がどうこう言ったって、それがすぐに解消できるもんじゃねぇだろう?それから、サンジが突然おかしくなっちまったのだって、お前の所為じゃねぇよ。」 「え?」 責められるだろう言葉を想像したのと反対のことを言われ、ポカンとするしかなかった。それはナミも同様だろう。 「これが原因じゃねぇか、ってゾロが言ってた。だから、チョッパーに調べてもらうな。」 これ、というのが、今、ルフィが口に咥えプラプラと揺らしている煙草だということは彼の視線ですぐにわかった。 「煙草が原因?」 ナミも不思議そうに見つめている。 「これってよぉ、ゾロの話だと、さっきJJが「ロイの遺品だ」ってサンジに渡したんだろう?ってことは、ロイと一緒に消えたサンジはこの煙草のことを知ってるんじゃねぇか?」 「・・・・・。」 「ルフィ・・・もしかして。」 「おう、ナミもわかったか?」 コクリとナミは頷いた。 「記憶が失くなる前、この煙草が原因の何かが二人の間にあったんじゃないかと思ってよ・・・。だって、あんなの普通じゃない。」 「ま、それはロビンの推測だけどな。あとよぉ、俺、煙草吸わないけど、煙草ってこんな味なのか?なんだか、変な感じがする・・・。」 「変な感じ?」 ナミが不審な目でルフィの手にあった煙草の箱の方を見つめる。 「確かにサンジくんの煙草じゃないし、見たことない銘柄だけど・・・。JJ、知ってる?この煙草・・・。私、あんまり煙草、詳しくないからよくわからないけど・・・。」 煙草がサンジが突然おかしくなった原因だと判断した二人は、JJを責めるつもりよりも、何か情報を引き出そうとしているのがわかった。 恐る恐るだが、素直にJJも答える。 「ぅ・・ぅん。・・・・・・・ロイも煙草時々吸ってたけど、これは知らない。でも、あの島で「ロイの遺品だ」って貰ったから・・・。僕は、「あぁ、煙草の銘柄変えたんだ。」ぐらいにしか思わなくて・・・。僕も煙草吸わないからわからないけど、・・・・・・・・・知らない銘柄だからあの島のじゃないの?」 考えながら答えるJJにルフィは「それは違うみたいだぞ」とJJの推測を否定した。 「あの島のだったら遺品にはならないだろう?元々、ロイが持っていた煙草だからこそ、遺品として貰ったんだから・・・。だから、本来はロイか、サンジが持っていた煙草だと考えるのが妥当だ!・・・・ってロビンが言ってた。」 「そうね・・・。」 ナミも頷いた。 しかし、煙草がサンジが狂った原因だとしても、結局、何があったのか、わかったわけではない。根本的は解決にはならない。 しかも、ゾロはサンジを連れてラウンジへ上がり、今はここにいない。ずっとサンジの傍に付いているのだろう。 「とりあえず、ルフィの言う通り、上に上がりましょう・・・。」 続きはそれからだ、とナミはJJの肩をポンと叩いた。 JJも二人に続くしかなかった。 ゾロはサンジの傍にいるんだ・・・・・・。 JJは重たい足を引き摺るようにして、ルフィとナミに付いていった。 |
2007.06.14.
なんか文章めちゃくちゃだけど・・・・直す気力なし・・・。