永遠の思いはあるのか22




あれから新しいコックを仲間に入れて、麦わら海賊団の旅は続いた。
新しいコックは一見穏やかに見えるが、さすが海賊船に乗ることを厭わないだけあって腕っ節も強かった。
強いが見た目には地味な男であるためか、それとも、性格も行動もまるでサンジとは逆だからか、誰もがサンジへの思慕を持たずに済んだ。


それからも旅は続き、訪れたグランドラインの島の数も数え切れなくなるほどになった。強い敵とも戦った。まだ見知らぬ大きな海王類とも遭遇した。



新しい仲間はその後もどんどん増え。
麦わら海賊団としての船も新しく大きくなり。




それでも昔からのメンバーはずっとそこにいた。サンジだけを除いて。

ただ、サンジのことを知らない仲間がどれだけ増えたとしても、ルフィが「サンジも仲間だ。」と言ってくれる言葉にゾロはまるで自分のことのように嬉しかった。



お互いの思いを繋げることなく別れてしまったが。
ナミのように思いが形になることはないのだが。

それでもゾロは終わりではないと思う。いや、思いたいのだ。


















「今日も厳しい訓練が続いているわね、ゾロ。」

のんびりとパラソルの下で本を読んでいたナミが、プットへの指導が終わって休憩に入るゾロに声を掛けた。
プットは先に上がり、すでにいない。

「あ"ぁ?んなことねぇよ。」

肩に掛けたタオルで大量に流れた汗を拭く。

「どう、プットは?」
「まぁ、俺の子だからな。筋はいいぜ?」

横に立ち、ニヤリと笑うゾロにナミの顔が歪む。

「せめてプットにはあんたのような人生を送って欲しくなくて、闘いとは縁のない”天使”って名前にしたのに・・・・どうしてかしら。」
「そりゃあ、この船に乗っている限り無理だろう、それは・・・。それに戦う”天使”だっているぜ?」

はぁ、と大きくため息を吐いたナミは手にしていた本をトンとテーブルに置いた。

「でも、どちらかというと環境というより血筋かしらね・・・・やっぱ・・・・。」

チラリと視線を送った先には大きく成長した我が子が、今度は飽きもせずにルフィ達と戯れていた。
子どもにはかなり辛い鍛錬をしたと思ったのに、もう次に遊んでいるのを見ると、年齢の割りに相当体力があるのだろう。
だが、楽しそうにしている表情を見れば、改めて成長途中の子どもであることを実感する。

「あぁして見ると、まだまだ子どもなんだけどなぁ〜〜〜〜。」

ナミに釣られてゾロもプットを見る。

「まぁ年齢だけで見りゃあ、まだ子どもだっていうのはわかるが。環境が環境だからな・・・。それでも、今まで戦闘に参加していないだけでももうけもんだろうが・・・。」
「そうなんだけどねぇ〜〜〜〜。」

様々な訓練をしているとはいえ、今だプットには実践がなかった。それは、ナミの母親として心配のあまりの配慮ではあったが。
それも、もう限界か。
海賊船に乗っている限り、戦いと無縁でいられるわけがない。
もうすぐプットは12歳になる。
地域が地域なら、すでに大人として扱われることもある年齢だ。

それを、『まだ早い・まだ子どもだ』のナミの一言で、戦闘に参加せずに、いつもナミの傍にいた。
母親を守るという名目で。



それが、プットには不満なのはゾロにはわかっていた。
自分がもし当人だったら、真っ先に戦闘に参加して、真っ先に敵に向かっていくだろう。
実際に今プットの年齢が、ゾロが一人、旅に出ることになった年齢よりも早かったとしても。


プットの腕前を見てゾロは思う。

いきなり戦闘に参加というわけにはいかないだろうが、海獣を狩らせてみようか。と。
もし、危なければ、それはまだプットの実力がまだまだだ、ということになる。
狩り程度ならば、仮に何かあっても、この船に乗る者はみな、相当の腕の持ち主ばかりだから手助けできるだろう。問題ない。そもそもプットが危険になれば、真っ先に自分が飛び込むだろうことは、頭の隅に追いやって。


自分が手にしているプットの剣を見つめる。
訓練中も今は実践さながらに本物の剣を使う。
プットの剣は、とある島で、ゾロが剣の手入れにと入った店でプットが一目見て気に入った品だ。普段はあまり子どもを武器のある店には連れて行かないのだが、何故か、その時は我が子を連れて出歩くことになった。ゾロにはそれがめぐり合わせだと思えたので、その店で見つけた剣を手に入れるのに躊躇することなく、すんなりと彼の武器として手に入れることにした。
その代わり、本人には、「まだ帯刀するな」と言っているので、普段はゾロがプットの剣を保管している。
プットの剣は、ゾロとは違い両刃の剣だ。
刀が違う為、実際の剣の使いこなし方をゾロが教えられることもあまりない。
体力的なことや基本的なことはゾロが教えているが、いざ、実際の剣の使い方となれば、他の乗組員から教えてもらうことも多かった。
嬉しいような悲しいような。
プットがそれを臨んだのだから仕方がない。
親の言う通りのままに子どもが育つわけがないし、言う通りのままには育って欲しくなかった。
そんなゾロの想いがどこかで伝わったのか。
だからこそ、プットの方もまるっきりゾロと同じタイプの剣士になろうとしなかった理由なのかもしれない。




バケツに入ったルフィ達が釣った魚を見ているプットの傍に寄る。
鍛錬の時間は終わったので、今はルフィ達と遊びに興じていい時間帯なのに、わざわざ近寄ってくる父親にプットは顔を上げた。

「どうしたの、父さん・・・・。」
「・・・あのな。」

「お前もそろそろ・・・・・」そう言葉を紡ごうとして、ハッと顔を上げた。

「敵襲だぁ!!」

見張り番の声が船中に響き渡る。

気が付けば、いつの間にか自船の前に大きな船がいつの間にか行く手を阻んでいた。

「こいつぁ・・・・。」

まだ船影は小さいが、とうてい逃げ延びることのできない速さで近づいてくる。
隠れることはできない海での突然の出現に、その船の機動力の良さが伺えた。
遠く吼える敵船の歓声からするとどうやら同業者のようだ。

ゾロの口端がニヤリと上がった。
素早く反応し、ゴムの腕をぐるぐる回しているルフィを一先ず止める。

「おい、プット。お前、戦闘に加われるか?」


できれば海獣狩りから始める形から慣らして、いきなり戦闘にはしたくなかったのだが、仕方がない。これが海賊というものだ。


顎で、船の前に立ちはだかる敵船を指し示す。
重みのある声でゾロがプットに声を掛けた。

「まだよ!まだダメよ!!ゾロっ!!」

母親であるナミが、ゾロの意図に気付いて悲痛な声で止めようとする。プットの腕を掴んで離さない。

「プットが戦うなら、私が戦うわ。プットにはまだ早いわよ!」

今にも我が子を抱きしめんとばかりに訴える母親の声は父親の決断と本人の意思によって断たれた。

「こいつも男だ。いつまでも甘えさせるな!」
「そうだよ、僕は大丈夫だよ!」

ゾロに同調してプットはナミを見る。
その顔はすでに闘う男としての顔だ。

「・・・・!!」

ナミは声を詰まらせた。
ショックを受けている母親を落ち着かせようとして、穏やかな顔をナミに見せた。

「俺ももう一人前に戦えるよ、母さん。」

ゾロが手にしていたプットの剣をポンと投げてよこした。
まだ成長途中ということもあるせいか、プットの手にはまだ大きい剣のズシンとした重さに改めて顔を顰める。が、それも一瞬のことで、鞘からスルリと剣を抜く。
一歩前に出ると、くるりと振り返りゾロに微笑む。

「見てて、父さん。」
「がんばれよ。」

ゾロも我が子の初めての戦闘に僅かながらも緊張しているのか。いつもより前に出ることはない。
プットの身を案じてなのだろう。もし、プットが危険になればすぐにでも助けに迎えられる位置に立つ。

ゾロの立ち位置に父親としての真意に気が付くが、プットもそこは知らない振りをする。
なんせ、実際に敵と戦うのはこれが始めてなのだ。強気を持っているのは変わらないが、緊張しているのが自分にもわかった。剣を握っている手が震えているのがわかった。
が、真っ直ぐにゾロを見上げたプットは、もはや自分は子どもではない、と自分自身に言い聞かせる。一人の男だと自分に訴えた。

プットの視線の意味を悟って、ゾロはコクンと頷いた。
プットの後に立ち、前を見据える。

船長は喜々として他の乗組員と、すでに船首へと移動し、今にも敵船に乗り込もうとしていた。





来た!!




まだ変声期前の高いトーンの声が、それでも「うおぉぉぉぉ!!」と唸り声を上げた。






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07.04.04




次でラストです。(漸く!)