永遠の思いはあるのか10
すぐにでも、船を出ようとしたゾロをナミが止めた。 「待って、ゾロ・・・。まだ一週間あるわ!そんな慌てなくても!」 「待ってるんだろう?鷹の目が・・・。剣士として勝負を望んでいる相手を待たしちゃ、悪いだろうが!」 「でも、いくらエターナルポースがあるからって、貴方一人で辿り着けるの、そこに?」 ナミの視線にゾロがグッと詰まる。迷子癖はそれなりに自覚があるようだ。 「いくら一対一の戦いでなければいけないって言っても、一人で出て行って無事にその島に辿り着けるとは到底思えないわ。ここからそう遠くないって言うし・・・・、私が着いていくわ。」 ナミの決意をした顔にゾロは驚く。 目を丸くするゾロを尻目にナミは言葉を続ける。有無を言わさぬ勢いで。 「もし、島に着いた時点で私が邪魔なら、一旦戻るわ。頃合を見て、後で迎えに行くということにすれば問題はないと思うし。その時はメリー号で迎えに行ってもいいでしょう。その方がいろんな意味で確実だわ。いいでしょう?その方が確実にミホークに会えるわ。」 「・・・・・・、わかった。」 いつもなら、そこで「何でナミさんが!」と割って入るはずのサンジが何も言わない。レディにそんな役目はさせられない、と捲し立てると思いきや、ずっと黙ったままだった。 ゾロが不審に思い、誰にともわからぬようにそっと窺うと、ナミ以上に何かを決意したような表情で立ち尽くしている。 まったくこの二人は・・・、とゾロは内心ため息を吐いた。 戦いに行くのは、俺なのだと、叱ってやりたくなるほどに二人の顔は同じ顔をしていた。 が、心の内に秘めているのは、同じだとは限らないだろう。 ナミが決意したことはわからないが、付いて来るという。それに対して、サンジは何も言わずに立ち尽くしているかと思えばコツコツと足音を立ててそのままラウンジへと入っていってしまった。 「ルフィも・・・・・いい?私がゾロをその島まで案内するわ。そして、みんなで大剣豪になったゾロを迎えに行きましょう。」 キッと眼差しを向けた航海士にルフィも、険しい顔をして頷いた。 本当だったら船長として、「仲間の戦いを見届けるのも役目だ。」と、「俺も付いて行く。」と言いかねない船長が大人しくしている。 拳を握って震えているのを見ると、我慢しているのが目に見えた。鷹の目の言葉を守るのが男として、船長としての責務だと、納得しているのだろう。 「頼むぞ、ナミ。ぜってぃゾロは、鷹の目に勝って大剣豪になる男だ。そして、またこの船で一緒に航海するんだ。」 「・・・・・うん。」 「で、いつ発つんだ?」 ウソップが泣きそうな顔で聞いてくる。隣にいるチョッパーでさえ涙を浮かべている。 誰もが、着いて行きたい衝動を抑えているようだ。 それに答えようとしたゾロを絶って、ナミが先に日にちを口にした。 「すぐ近くの島とはいえ、無人島よ。それなりに準備が必要だわ・・。だから3日頂戴。」 ナミの口から出た予想外の日数にゾロが目を剥く。 「そんな待ってられねぇ!明日だ!!」 声を荒立てる剣士にナミは、今度は泣きそうな顔をする。が、誰にも見られないように、考え込む振りをして、俯く。 「・・・・・・わかったわ・・・。明日ね・・・・。じゃあ、今から準備をしなきゃ・・・。」 踵を返すナミは無人島を指すというエターナルポースを手に走り出して行き、そのまま部屋へと行ってしまった。 らしくない、といえばらしくないナミに誰もが声を掛けることもできずにただ首を振るだけだった。 それはもちろんナミの心情を知っているはずのゾロでさえ。 まぁ、乙女心はわかんねぇよなぁ〜。 そう溢してラウンジに戻っていたサンジは窓の外からことの様子を眺めていた。 「じゃあ、ゾロには、栄養たっぷりの体力増量弁当と、ナミさんには、元気がでる涙もふっとぶ楽しいサンジ弁当だな・・・。」 ニヤリと笑ったつもりが、やはり、引き攣っていた。 手にしている包丁が小刻みに震えているのは、知らない振りをした。 その夜は、「ゾロが大剣豪になる前祝だ!」と謳っていたルフィを押さえて、いつも通りの夕食にした。 ルフィなりに沈黙する食事を取りたくなかった配慮からだと、誰もが口にしなくてもわかっていたが、それでも「いつも通りでいい。」というゾロの言葉に誰も反論することができなかった。 いつもと同じ方が自分も落ち着くというのだ、命を掛けた決戦を前にして。 ゾロらしいといえば、ゾロらしいだろう。 ただ、夕食のメニューにはゾロの好きなものがいくつかテーブルに並んだ。 が、一番好きだと言う、里芋の煮物は出なかった。 サンジ曰く、材料がない、というより、「食べたかったら、勝ってこい。そして、戻ってきたら好きなだけ食わしてやる。」という必勝を願った意味を含めているらしい。 挑発するようにタバコを吹かすコックに、ゾロは笑って答えた。「じゃあ、てめぇ、俺が戻ってくるまでずっと芋の皮むきをしてやがれ。すぐに戻ってきてやる。」と。 ふん、と鼻を鳴らすコックの顔がゾロにはとても嬉しかった。 それに合わせて、他の者も避けていた話題をやはり口にしだす。 ウソップは、ゾロが戻って来なかったら、以前気に入ったから買ったという部屋に飾っている虎の置物をもらっちまうぞ!と脅した。 そいつは困る、とゾロは苦笑した。 チョッパーは傷に良く効くという塗り薬をゾロに渡した。 ありがとうな、と帽子をポンポンとした。今すぐにでも涙を溢しかねない船医にゾロは大丈夫だと、答える。 ロビンは、いつ手に入れたのか、お守りを渡した。「気休めかもしれないけど、気持ちの持ちようって大事なのよ。」と笑う、仲間になって一番日の浅い年上の女性も仲間として心配してくれているのがゾロには嬉しかった。 素直にありがとう、とお守りを手にした。 船長は、「ゾロが帰ってきたら、真っ先にお祝いをするぞ!」と、豪語する。 そうだな、と笑った。 ナミも「準備をしっかりとしておきなさいよ。」と叱咤した。「肝心な時に刀の手入れが悪いままだったら、話にならないわ。」と笑った。 言葉にできない寂しさと緊張の中で、笑って食事を取る事が出来たのは、良かったと誰もが思った。 そうして皆、静かに部屋へと戻った。 甲板から月を眺めていたら、後ろに気配を感じた。 誰だか気配でわかったゾロは、後を振り返ることなく背後に佇む人物に声を掛ける。 「どうした・・、ナミ。」 「・・・・・・・ゾロっ。」 ゾロの名前を呼んだまま、言葉を続けることがなかった。 何も言わずにただただ時間ばかりが過ぎていく。 暫くそうしていたが、このまま夜を明かしてしまうわけにもいかず、ゾロは振り返った。 静かに声も掛けずにいたのは、涙を堪えていたからなのか、ナミの頬に涙を見つけた。 ポロポロと頬を伝う雫は止まらないまま、足元に滲みを作っていた。 「お前らしくないな・・・。」 ゾロが呟くと、ナミが怒ったように声を荒げた。 「私だって女よ!仕方ないじゃない。」 キッと睨みつけるナミにゾロは息を吐いた。 「だって・・・・・・仕方ないじゃ・・・・・ない。だって・・・。」 どんどん声が小さくなっていく。 すでに皆寝静まったらしく、辺りからは小波が船に当たる音しか耳に届かなかった。 その音にかき消されてしまうほどの小さな声で。 「だって・・・・・好きな人が戦いに行ってしまうのよ。命を掛けた戦いに・・・。勝つと信じているけど・・・やっぱり、もしも・・・・って、考えてしまうのよ。」 「ナミ・・・。」 「言ったでしょう?ゾロのこと、好きだって!」 「・・・・。」 ナミが胸を鷲掴む。 ギュッと力が入り、服が皺くちゃになるのも構わず、ゾロを見上げた。鼻先がくっつきそうな程に近づき、目が離せない程に見つめられる。 「好きな人が戦いに行ってしまうのを止められない女の気持ちなんて、男には一生わからないわよ!!」 さらにぐいっと手に力が入ったと思ったら、思い切り唇を重ねられた。 驚きでゾロの目が見開く。 どれぐらいの間と思うほどの時はなく、すぐにそれは離された。 「・・・・・な・・・・。」 何も返せないゾロに今度は抱きついた。 「ゾロッ。突き放さないで・・・。お願いっっ!」 言葉と同時にゾロの胸に温かいものが伝わってくる。 あぁ、涙が止まらないのか、とすぐにわかった。 「今夜だけ・・・・・。一晩だけでいいから・・・・・・あんたの恋人になりたい!」 「ナミ・・・。」 ゾロの手は空を彷徨うばかりだ。 「お願い!生きて帰ってきてくれれば、それでもういいから!それだけでいい。無事に帰ってきてくれれば、その後はサンジくんと結ばれてもいいから。もう、二人の邪魔はしないから!だから・・・。」 「邪魔も何も、俺達は別に・・・。」 三人仲良く酒を酌み交わすことができるようになってさえ、サンジからは何も伝えられていない。それはある意味、当然と言えば当然なのだが。 「わかるわよ。あんたの気持ちも、サンジくんの気持ちも・・・。恋する乙女を侮らないで!」 胸にすがり付いてさえ睨みつけるその強さはナミだからなのか。 それでも、女性らしい弱々しい面も見受けられた。 「帰ってきたら、二人一緒になっていいから。もう、貴方達を困らせたりしないから。明日には普通の仲間に戻るから!だから、今夜だけ。今だけ、貴方の恋人にさせて。お願い。」 「ナミ・・・・。」 「ゾロッ・・・・・・お願い。私の気持ちを無視しないで!」 いつもの強気な睨みつける表情は、徐々に、ただただ好きな人を想う可弱い少女に変わってゆく。 月夜に照らされた涙で濡れる頬はゾロの気持ちを揺さぶった。 揺れる瞳はゾロの眼を捕らえて離さない。 「ナミ・・・・・。」 声を出さずに泣く少女が愛しくなり。 ゾロは、震えるナミの肩を力強く抱きしめた。 |
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06.09.20
ごめんなさい、今回ゾロナミですわ〜〜(^_^;)