永遠の思いはあるのか11




「夕べ、ナミを抱いた。」

ゾロが目を見つめて正面に立つサンジに話した。
サンジは冷静にその目の前の男を見つめ返す。

「でも、・・・・・てめぇに惚れているのには、変わりはねぇ。」
「・・・・!!・・・・・だったら、何でナミさんを・・・っっ!!」

サンジは言葉を続けられなかった。

「あいつの気持ちに応えたかった。・・・・それに、戦いを前にして昂っていたのもあるんだろう。」
「はっ!死ぬかもしれないって!!よく言うもんなぁ〜。死を目前にすると子孫を残そうという本能が働くって!てめぇ、そんな本能だけで!!」

グイッとサンジはゾロの首を締め上げた。
ゾロは多少苦しそうにするが、されるがまま只管サンジの眼を見つめる。その瞳は深い深い色をしていた。何かを言いたげに。
サンジは意味ありげに色を纏う瞳に怯むことなく、相手を睨みつける。
見つめあう眼は、お互いに何かを訴えているようだが、それをまたはっきりとはお互いに掴み取れない。
首を締め上げられたことで声が掠れているが、ゾロはそのまま睨みつけるサンジに向かい口を開いた。

「そうかもしれねぇ・・・。が、そうじゃないかもしれない。わからねぇ・・・。ただ、同意の上だ。それだけは事実だ。」
「同意って、当たり前だろうが!!ナミさんはてめぇに惚れているんだぞ!!」
「・・・・サンジ・・・。」
「こんな時に名前を呼ぶなっっ!!」

胸倉を掴んだまま、ダンとサンジはゾロを壁に追い詰めた。
さらに険しくなる瞳の奥は夕べのナミよりにも増して強い想いがあるようにゾロには思えた。見えるはずは無いのにサンジの背後から赤いオーラが吹き出しているようにゾロには感じた。
ゾロは、徐にサンジの腕を外す。ゆっくりとする仕草にサンジは一体何だ、とゾロのするままに任していたら、体制を入れ替え、いつもは咥えているはずのタバコがない唇にそっと口付けた。

グウッ

瞬間、思い切り蹴り上げられた。

「てめぇ・・・!!」
「・・・サンジ・・・。」
「・・・・・なんだ!」
「この話は帰ってきてからだ・・・。」
「なに・・・?」
「俺は必ず、帰ってくる。だから、この話は帰って来てから続きをする。てめぇととことん話がしたい。・・・・が、俺がてめぇに惚れているのは変わらねぇ。」
「・・・・・・・。」

意を決した顔を曝してゾロは、マストから伸びている足掛けに手を掛けた。グイッと力を込めて登りだし、そのまま、振り返らずに男部屋を出て行ってしまった。
ランプを点けていなかった為、ゾロが出て行く際に入ってきた光の他は部屋には明りがなく、薄暗い。一瞬、太陽から届いている光線が床を照らし足元の板目を顕わにしたが、ゾロが天井の蓋を閉めると、元通りに暗さが戻り、眼には黒い色しか届かなかった。

サンジはゾロが出て行く一連の動作を呆然と見上げるしかなくて。
今、出て行かなければ、最早そのまま言葉を交わすことなく、そのまま別れる事になるだろう。
いや、帰ってくるというから、一時のことではあるのだろうが、それでも、今から死と隣り合わせの戦場へと行くのだ。無事に戻ってくるという保障はない。
それを頭では理解しているが、やはりサンジの口から、励ましの言葉も、追い縋るセリフも、そして、仲間として言わなければならない言葉さえも発せられなかった。





「お〜〜〜い、ゾロぉぉ〜〜〜〜〜。がんばれよぉ〜〜〜〜〜〜。」

なんともなしに立ち尽くしていたら、叫ぶウソップの声がサンジの耳に遠く聞こえた。
それとともに、ガタガタと複数の足音が頭上に響く。
皆がゾロを見送っているのだろう。足音が移動していき、それに伴い、ガタンゴトンと船内に響いた音が少しずつ離れていき、遠のいていく。
壁の向こうからゾロが船を降りたのがわかった。


「・・・・・・!!」

複数の頑張れぇ!の声に呼応して少し高い質の声が響いた。
何を話しているのかまではわからないが、声の高さからして、ナミが皆に何かを伝えているのだろう。

ゾロを戦いの場所である無人島へ連れて行くと、言っていたのを今更ながらに思い出した。






「ナミさん・・・・・・。ナミさんはわかっているのか・・・・・?ゾロとの思い出なんてのを作りたかっただけ・・・・?それとも、もうゾロを恋人と思っている?」

サンジの問に答えられる人物もゾロと共に船から離れてしまった。

が、今ここに居たって実際に聞く事はできない。
何と聞けばいい?「ナミさん、ゾロと寝た?」なんて聞けるわけが無い。
しかも、上手く聞く事ができたとしても、逆に「どうしてそんなこと聞くの?」と聞き返されたら、何と答えればいいのか。二人のことが、気になる。とでも言えばいいのか。
それは、以前ナミが指摘したことを証明するだけで、反ってナミを苦しめるだけでしかない。
いや、ゾロはもうナミさんのことを好きなんだ、と言えばいいのか。・・・それでは、ゾロが帰ってきた時にどうするのか。ゾロとは、きちんと決着がついていない。それはこの死闘の後に先延ばしにされた。

「ゾロを説得すればいい。」

口にしてみるが、そんなことを応じる男ではないとわかっているはずだ。




何でゾロはそんなことをこの戦いの前に言い出したのだろう。
何で、戦いに集中しなくてはいけない時に、ドロドロした想いを穿り返すのだろう。






























ゾロは内心ため息を吐いた。

最後かもしれない時を前にして、つい甘えてしまった。
そういう男だと知っていながら、つい期待してしまった。
よくよく考えれば、言うはずが無い。何せ、ナミ至上主義の男なのだ。あいつにしてみれば、ナミの事が一番なのだ。その為には、自分の命だって差し出すのだ。

それなのに、少しでいいから嫉妬心を抱いてくれるのでは、と期待して言ってしまった。「ナミを抱いた。」と。
怒りつつもほんのちょっとだけでいいから、言って欲しかった。

「俺もお前が好きだ。」
「ナミさんよりも俺を抱いてくれ。」

もしかしたらサンジが言ってくれないかと期待していた淡い期待は無残にも砕け散った。やはり、そんな事を言ってくれる男ではなかった。

が、まだこの勝負は終わったわけではない。
「俺は別にお前のことが好きなわけではない。ナミさんと結ばれたんだからそんなことを言うな。もうお前はナミさんの恋人だろう。」
「じゃあ、ナミさんの為にも帰ってこないとな。」
逆にこんなことを言われたらサンジとの関係が完璧に終わっていたかもしれないが、そんな言葉を発したわけでもない。もちろんまだ始まったわけでもないが・・・。
というよりも、言わせなかったというのが正解かもしれないが。
答えはあの表情の中にあったはずなのに、言葉で伝えても聞き入れてくれない。
だから、その代わりに行動をおこしてしまった。
衝動的だったが、ついサンジの顔を見て、キスをしてしまった。
でも、蹴りはされつつも咋な拒否はなかった。悲しい顔こそすれ、嫌悪の表情はなかった。

だからこそ。
帰ってきてから、と言ったのだ。帰ってきてから、もう一度話をしたいと思った。その時には、サンジの中の何かが変わっていればいい。
ゾロは短気ではあるが、意外と辛抱強いのだ。サンジが心の内を曝け出してくれる日が来るのを待つのは苦ではない。

だから。
帰ってこよう。
己の為に戦うのだが、夢の為に戦うのだが。亡き友との約束の為に戦うのだが。
そしてそれら全ての為に勝つのだが。
それでも、サンジの為に生きて帰ってこようと思った。
まだ想いを伝えきれていない。
想いを伝えてもらっていない。
だから、生きて帰って来よう。




ゾロは新たな思いを胸に前方に見え出した決戦場である無人島を見つめた。






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06.09.22




作業をしだすと眠くなります。(だから、どうした・・・。)