永遠の思いはあるのか12
ナミはため息を吐いた。 夕べ、ナミはゾロに言ってしまった。 『一晩だけでいいから、恋人になりたい』と。 今思えば自分らしくない、と思う。 が、あの時は、抑えられなかったのだ。自分の気持ちを。以前、告白した時以上に、自分の思いを止められなかった。 最強の男との戦いを前にして。 考えたくはないが、死ぬかもしれない戦いを前にして。 どうしても抑えられなかった。 たった一晩きりの恋人。 明日を控えて、本当ならサンジと夜を共にしたかったのかもしれないが、その貴重な時間を自分が占領してしまった。サンジも何か感づいたのかはわからないが、その夜は他の仲間同様にごくごく普通に男部屋へと入って行った。 ゾロにとっても、本音を言えば迷惑だったのかもしれない。 でも。 もしも、という気持ちが脳裏を横切る。ブルリと身体を震わせ、頭を振って考えを正す。 きっと彼は勝利を収めて帰ってくるだろう。 仲間達の元へ。自分達の元へ。自分の思いを口にすることなく、秘めている彼の元へ。 そして、今度こそお互いの気持ちを吐き出せばいいと思う。 自分は一晩の思い出だけあればいい。 それさえあれば、笑顔で帰ってくる彼を迎えられる。 それだけでいい。 そんなナミの気持ちを察したのか、それとも、死闘を前にして気持ちが昂っていたのか。 ゾロはナミをただ抱きしめるだけでなく。 ゾロは男として。ナミは女として。一晩を過した。 それは、ナミには思いもよらぬことだったが、ナミにとってこれ以上ないほどの至福の時だった。 相手がどうあれ、好きな男に抱かれるのだ。ほんの一時だけかもしれないが、ナミを自分の女として抱いてくれたのだ。 こんな幸せがあったなんて思いも寄らなかった。 たった一度きりの関係だけれど、いつかは忘れらてしまうかもしれないけど。でも今は、きっとゾロの中に残っている。 ナミの中にもゾロの温もりが残っている。 もう、平気だ。 これで二人が結ばれても喜んであげれると思った。 一晩の思い出があれば、笑顔でいられると思った。 笑顔で二人を祝福できると思った。 ナミはため息のあと、ひとり誰にとも向けない笑顔を曝した。ほんのちょっぴり涙の味のする幸せな笑みを。 そして、戦いへと向かう小船の中。 小船は戦いの場である無人島へと向かう。 皆に見送られて。 絶対帰って来いよ!の声を背に。 ゾロは剣を翳して無言で答えた。力強く、高く剣を掲げる。 絶対帰ってくると皆に誓いを立てて。 小船に荷物を用意しながらナミはメリー号を見上げた。 「行って来るわ!」 「ナミ、ゾロを頼むぞ!!」 「わかってる。ロビン、ルフィ達をお願いね。」 「わかったわ・・・。」 口々にがんばれ!負けるな!生きて帰ってこい!と叫ぶ面々を見るが、その中に金髪の頭が見えることはなかった。 暫く待とうとしたが、ゾロが船を出せ、というので、仕方なくそのまま小船を出した。 ナミが徐々に遠ざかるメリー号を見ながらそっとゾロの様子を伺ってみれば、ゾロは静かに目を閉じていた。 先ほどまでは皆がいたおかげか、ごく普通に接する事ができたが、いざ、二人きりになると夕べのこともあり、必要以上に意識しだした。 「ゾロ・・・。」 「何だ?」 聞こえるか聞こえないかの小さな声にもきちんと返事をしてくれた。 「あの・・・。夕べは、ごめん。」 「何でテメェが謝るんだ?」 「だって・・・・。」 「お前を抱いたのは、俺の意思だ。コックにもそう伝えた。」 「えっ・・・!!」 ナミは目を丸くした。 まさか、夕べのことをサンジに言ったとは。 思わず舵を握る手の動きが止まる。 「ちょ・・・・・。サンジくんに、そんなこと・・・。」 顔を真っ赤にして、どう言葉を繋げようか考え込んでしまう。 「別に構わない。事実は事実だ・・・。」 「でもっ・・・。」 今まで、目を瞑り静かにしていたゾロが改めて姿勢を正した。 「それに、謝らなければいけないのは、こっちの方だ。」 「・・・・・ゾロ・・・?」 「確かに夕べはお前を抱いた。が、悪ぃ。やっぱ、あいつに惚れてる気持ちに嘘偽りはねぇ。男として最低だというのはわかっている・・・が・・・・・。」 「うぅん、いいの・・・・・・。わかっていたことだから・・・。」 すっきりとした、とナミは明るい笑顔でゾロに向き合った。 「いいの!私の方が誘ったことなのよ。ゾロが気に病むことないわ。それに・・・、私の気持ちを受け取ってくれただけで、私は嬉しいわ。」 ニッコリと笑うナミにゾロも釣られて笑う。 「でもさぁ〜〜〜。こんな命を掛けた戦いを前にして、する話じゃないわよねぇ!」 「いいんじゃねぇか?」 「何で?」 「あいつとは、まだきちんと話をしてねぇ・・・。帰ってきてから、きちんと話をするって約束した。だから、何があっても勝って、生きて帰ってこなけりゃいけねぇ。」 「それに里芋の煮物も食べなきゃね!」 「そうだな・・。」 「なんか、大剣豪に勝つには今一ふしだらな理由よねぇ〜。」 「鷹の目に勝つ理由は、別だ。勝って大剣豪になるのは、小さな頃にしたくいなとの約束であり、夢だ。だが、これは生きて帰ってくる理由だ。」 らしいような、らしくないような口ぶりにナミは笑う。 「でも、出る前にケンカしちゃったの?サンジくん、男部屋から出てこなかったじゃない。部屋で話をしたんでしょ?」 「あぁ、ケンカってほどじゃねぇが・・・。まぁ、ケンカだったらそれはそれで帰ったら続きしなきゃいけないな。」 ニヤリと笑う剣豪にナミは、肩を竦めた。 あぁ〜〜〜ぁ、本ト、いい男。 帰ったら、ルフィと一緒に自棄食いしましょうっと。きっと、ルフィなら付き合ってくれるわ。 内心、呟いて、それでもきちんと仕事をこなすべくエターナルポースを睨む。 進路には問題なし。風の強さも丁度良く、予定よりも早く島に着きそうだ、ナミはゾロに伝えた。 それからはずっと黙ったままだった。 ナミはふしだらな理由と口にしたが、本当はそう思っていない。 どんな形であれ、帰って来て欲しいから。 ただただ只管この不器用な男に帰って来て欲しい。 それだけを願って小船を操縦した。 太陽が空の頂点に届こうかと言う頃、水平線に添って、稜線が見え隠れした。 潮の流れも変わってきて、陸地が近いことを表している。 エターナルポースも間違うことなく、見え出した茶と緑の色をした塊を指していた。 無人島ということだけあって、木々が生い茂っているのだろう。遠くからでも、生命が溢れんばかりの島だということがわかる。野生の動物達も多そうだ。 その生命溢れる島にいるのだ。 あそこにいるのだ、世界最強の剣士が。 普通ではまずありえない状況。世界一強い男が挑戦者を待っているなんて。 鷹の目が立って己を待っている。そう考えただけでも、ゾロは鳥肌が立った。 小船ということもあり、島影を確認してからかなりの時間をかけて島に近づいた。 いよいよ陸の上にあるものさえはっきりと認識できるほどに近づいた。 やはり約束通り、すでに鷹の目がいるだろう奴の船がゾロの視界に入った。 それだけでなく、島に近づくにつれ、野生の生き物以外にも届いてくる気配。島が赤く燃えているように見えるほどの昂揚感。 待たせたな、世界最強の剣士よ。 昂る心が止められなかった。 「ナミ・・・・・。ありがとな・・・。」 「ゾロ・・・・。」 「もう、いい。」 軽く礼をすると、ゾロは纏めた荷物を手に小船を降りた。 バシャンと水しぶきが上がった。 まだ太腿まである水位だったが、構わず進む。 「ゾロッ!!」 「迎えに来てくれるんだろう?」 「・・・うん。」 「待ってるからな・・・。」 「・・・・。」 振り返ることなく、島へと進む愛する剣士にナミは叫んだ。 「必ずっっ!!必ず勝って!!迎えにくるからっっ!生きて待っててよ!!」 真っ直ぐ歩きながら、軽く手を振ることで返事をしたゾロにナミはグッと涙を堪えた。 ゾロが上陸するまでを見届けるのが怖くて、ナミはそのまま船の針路を今来た航路へと戻す。 迎えに来るのは一週間後。 苦しくて苦しくて辛い一週間がこれから始まろうとしていた。 |
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06.09.26
もうちょっとで、ひと区切り・・・。(これもかよ!)