永遠の思いはあるのか13




ゾロを決戦の島に置いてきてから一週間が経った。
皆はメリー号で待っている間、鷹の目に出会った島で過ごすことも考えたが、ゾロが戦っている間にのんびりと島を巡る気にもなれず、かといってログのこともあるので、鷹の目と出会った島から少し離れた海上に船を漂わせていた。
その間、襲撃も嵐もなく穏やかな日々が続いていたが、乗組員からすれば心中は穏やかとは到底言えなかった。
それはそれはメリー号の皆からすれば、とても長い一週間だった。

船長は、只管メリーの頭で静かに前を見つめ。
狙撃手は、何やら実験のようなことをしていたが、いつも以上に失敗ばかりして「船が壊れる。」と航海士に怒られ、「使った食べ物がもったいない」とコックに怒られてばかりいた。
船医も、薬を沢山作っていたが、配合を間違えたり、作りすぎて部屋に酷い匂いを充満させてこれも怒られていた。
考古学者は、いつも通り本を読んでいたが、ページが進んでいなかった。
航海士は、地図を作るといいながら、インクを溢したり、紙を破いたり、ありえない地図ばかりを作っていた。
コックは、そんな皆を元気付けようとして逆にいつも以上にハイテンションに給仕をしたが反って白けてばかりいた。皿もかなり割った。
誰もが、おかしくなってしまったような一週間だった。
それでも誰も、待っている間は誰もゾロの名前を出さなかった。ゾロの名前を出すと、約束を忘れてそのまま迎えに走りそうに思えたのだ。
みんなは、ただひたすら心の中で待ち続けた。












そして、漸く約束の日を迎える。
食糧は海上を漂う前に、島で調達していたので問題はなかったが、誰もがそうそう食欲が湧くわけでもなかったで、朝からとても質素なものだった。
サンジとしては、いろいろな料理を作ってみんなに元気になってもらいたかったが、この一週間、誰もが食欲が湧かないと箸が進まなかったので、あえて量を減らしていた。それは、ゴム胃袋を持った船長も同様だった。
当日はそれでもいつもよりは多少は食が進んだのだが、やはり心配の気持ちは変わらない。いつも通りの量で正解だったとサンジはため息を吐いた。
軽く朝食を済ませると、船長がいつもより重い口を漸く開いた。

「ゾロを迎えに行こう。」

出航前の明るさはない、何かを決意したような重い口調だった。
そして、誰もが一週間呼ばなかった名前。呼んでしまえば、どこからか苦しい心が溢れ、心配で押しつぶされそうになってしまいそうになる。
それでも常に心で勝利を願っていた仲間。
禁句になっていた名前が、一週間を経て、漸く解禁になった。


ルフィの言葉に誰もが頷いた。
慌しく出航の準備を始める。
ナミがエターナルポースを握る。
いつもはゾロが担っていた碇はチョッパーが上げた。
他のメンバーも荷をまとめ、帆を張り、そして舵を握る。

メリーに座る船長が声を高げた。

「ゾロに向けてしゅぱつ〜〜〜〜〜〜〜!!!」


ざざ―――――っっ


最初はゆっくりと、そして徐々に船足を上げてメリーは進んだ。
たった一人で戦いに向かった剣士へ。仲間を待っているはずの男の元へと。



彼は待ちくたびれているかもしれない。
約束した日にちにも関わらず「遅い!」と怒るかもしれない。
浜辺で焚き火で魚を焼いているだろうか。それとも、獣でも捕まえて一人豪華に食事をしているかもしれない。
メリー号を見つけたら「大剣豪になった」と、いつもの悪人と見間違うほどの笑顔を見せるだろうか。
純粋に笑いが溢れんばかりの、ルフィ達の悪戯に笑うような笑顔を向けるだろうか。
もしかしらた、ゾロの事だ。散歩と言って島の奥底で迷子になっているかもしれない。
そしらた、皆で一斉にゾロを探して島狩りだ。


震える体は止まらないが、誰もがゾロが負けてしまうという仮定は口にしなかった。
島に向かう間、誰もが、ゾロの勝利を当たり前とし、祝いの宴の話をした。
ルフィは早速、肉肉と騒ぐ。
チョッパーは誕生日でもないのに、甘いケーキも食べたい、と言う。
ナミやロビンは特に指定はないが、食べ過ぎても大丈夫なカロリーの少ないメニューがいいだろう。
ウソップは祝いのプレゼントをどうやって渡そうか思案中だ。
サンジは宴用の食材を用意しないと、と倉庫とキッチンを行ったり来たりしていた。

誰もがソワソワしている。
落ち着かないのか、船の中を意味もなくウロウロするものもいる。
信じているけど。
当たり前だと思いたいけど。

それでも、この目で結果を見るまでは落ち着かない。






















暫くすると、遠く島影が見えてきた。
誰もが緊張する。
ナミはこの島に来るのは二度目になるのだが、もしかしたら最初にゾロとここを訪れた時よりもさらに緊張しているのかもしれない。
ルフィの「出発!」の声を聞いてからまたしても、みな、無口になっていた。

が、島影がはっきりとしてくるにつれ、その茶色と青の境目に小さな船を一隻見つけた。瞬間、誰だがわからないが叫んだ。

「船があるっ!!」

一斉に皆が合わせてその声が指し示す先を見つめた。

以前、グランドラインに入る前、レストランバラティエに突如やってきた、小さな船。
どう見ても人一人乗るのが精一杯で、どうやって鷹の目は航海しているのかよくわからないが、兎も角鷹の目が使っているのを一度は見ているのだ。特徴からしても、間違いはない、とウソップ辺りが首を縦に振った。
只管静かにその船を見つめ続けていれば、メリー号は順調に進んでいるようで、船の細部までわかるほどに近づいていった。

これ以上は進むのは無理という限界の海域まで船は近づいて、碇を下ろす。
やはり、ゾロがいないので、下ろすのもチョッパーが役目を負った。

バシャン

飛沫をあげて、碇が海底に沈んでいくのを確認してから、ナミはルフィを見上げた。
いつもなら、何も考えずに真っ先に陸地へと飛び込んでいく麦藁帽子がいつになく動かなかった。

「ルフィ・・・。」

震える声で、ナミが船長の名前を呼ぶ。

はっ、とした表情でルフィはナミを見返した。

「行きましょう、ルフィ・・・。浜辺には誰もいないみたい・・・。」

そうニッコリと笑うナミもその笑みは引き攣っていた。
しっかりとしないとな、とでも思ったのだろう。
一瞬、キュッと険しい顔をしたあとすぐに、いつもの笑みと声を張り上げた。

「ゾロを探すぞ!!」

皆が一斉に船長を見上げて、首を縦に振った。

先ほど碇を下ろした時に気が付いたのだが、思ったよりも浅瀬のようで、ゴムゴムの技で飛んでいった船長に続いて、皆、そのまま海に飛び込む勢いで船を降りた。
船長を筆頭に、順に船から降りて、浜辺を上がった。
多少服が濡れたが、そんなものは関係なかった。

バシャバシャと波飛沫を上げて、上陸した皆はくるり、と回りを見回す。

空から鳥の声が降ってくる他には、キーキーと猿らしき声が距離感を持って、みんなの耳に降り注いだ。

「ゾ〜〜〜〜〜〜ロ〜〜〜〜〜〜〜!!」

島中に響いてしまうのでは?と思うほどにルフィの声はよく通った。

「ど〜〜〜こ〜〜〜〜〜だ〜〜〜〜〜〜〜〜ぁぁぁ??」

一週間も経つのだから当たり前なのだろうが、砂浜には足跡一つすら残っていなかった。
もちろん、人の気配もまったく感じられない。



「もしかして・・・・・ゾロのやつ、負けちまったんじゃねぇか・・・・?」

恐る恐る考えはしたものの、誰もが口にはまったくしなかった結果をウソップは震える声であらわしてみる。もはや、顔は涙でぐちゃぐちゃなのだが。

「それはないわ・・・。」

ロビンがいつも通りの冷静さで素早く判断する。

「もし、鷹の目が勝ったのなら、鷹の目の船がいつまででもここにあるわけないはずよ。海の満ち引きによる動きを考慮しても、この船がまったく動いていないのはすぐわかるわ。この船がずっとここにある、ということは剣士さんが鷹の目を倒したと読むのが妥当ね。」

ロビンの説明に思わずウソップはホッと胸を撫で下ろした。
あくまで推測の域を出ていないが、誰もが同じ答えをを導き出すほどに砂浜の様子は穏やかで変化はみられなかった。

「仕方がねぇ・・・・、自分から生えている草とまわりの違いがわからなくて、ついつい内部へ行っちまったかもしれねぇな。一層のこと、そのまま皆で島狩りをした方が早いかもしれねぇ・・・。」

これを聞いたら怒って出てこないかと妙な期待もあったのか、サンジが呟いた言葉そのままに皆は笑顔を作った。
結局、浜辺を一通り探索して何も痕跡が残っていなかったので、麦わら海賊団全員で、島狩りを行った。





が、結局どれだけ探しても、どこを探しても、ゾロも鷹の目も見つからなかった。


「一体全体、どうしたことだろう・・・。」








待ち期間だった一週間よりもさらに長い期間を費やして、ログのことも忘れて、島の隅から隅まで捜した。
が、結局、二人とも見つからなかった。



二週間を経過した頃、船長は決断を迫られた。
どれだけ捜しても見つからなかった。
何があったのかは、わからない。
しかし、いつまででもこの島に留まっているわけにもいかなかった。


ゾロのことは信じているが、それでも何かがあったのだろう。
もしかしたら、待ちきれずに何かしらの方法で、この島を脱出してしまったのかもしれない。




ルフィはナミに指示をし、メリー号は次を指すログポースに従って出航した。

もしかしてどこかに生きて旅を続けているのかもしれない。
でも、どこでかはわからない。








その後、メリー号からはゾロの名前は封印された。









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06.10.05




これで一区切り・・・・。しばらく、他の話を更新する予定です。