過去と今と未来と11




宿に戻るとドアの外からに賑やかな声が漏れてきた。
今日も客が多いのだろうかとそのまま中に入ってみると、いるはずの大勢の客はいなかった。
しかも、ぐるりと回りを見回しても『麦わら海賊団』しかいない。
時間で考えれば、どうしたって他の客がいても不思議ではない。というより、いるはずだ。
それが、まったくいつもの顔ぶれ以外、誰もいなかった。見知った顔ばかりだ。

「あれ・・・?」

疑問を声にしてみると一番最後に店に入ったロイが楽しそうに笑った。

「今更かもしれないが、今日は、君達の歓迎会だ。店は貸切状態だ。遠慮しないで楽しもう。邪魔者は入ってこない。さぁ、サンジ・・・。」

一番後ろにいたのに、なんという素早さか。いつの間にかサンジの横に立ち、手を差し伸べる。

「あ・・・・。あぁ・・・。」

チラリとゾロを見て、躊躇しながらもサンジはロイの手を取った。





歓迎会という名の宴会は、人数が少ないはずなのに、とても盛大に感じられた。
もちろん、それはあの宴好きの船長がいるからだろうか。いや、もちろん船長だけではない。みんながみんな、宴会好きだ。
誰も彼もが、思う存分料理を食べ、酒を飲み、騒いだ。
いつの間にかチョッパーの持ちネタになってしまった鰌掬い。芸とはいえないが、それを芸にしてしまうゴムで伸びた船長の腹。得意げに演説しているのは、いつものウソップのホラ話だ。
それを楽しく見て、笑い、話し、騒ぐ、主催者である宿の主とその店員。

しかし、素直にそれを楽しめない人物がその場にはいた。
皆顔を赤くして騒いでいるその横でマイペースに酒ビンを口につけてぐびりと煽る剣士。
それは光景としてはいつものことなので、誰も気づくことはないのだが、その機嫌はすこぶる悪い。

2人して船に行こうとした、その時、どこから現れたのか、ロイが目の前に立っていて。
殺気を纏っていた訳ではないので、特に気配がどうのとかいう訳ではないが。兎に角、不審に感じることが多い。
あの場にタイミングよくいたのも不思議だ。出かけ先を伝えていたのでもないのに。
そして、船番のロビンのことも先に対応していて。
仕舞いには、この宴会。まぁ、「店の準備の関係で」、と言い訳はできるのだが、あらためて今頃する理由もよくわからない歓迎会。
しかし、何か裏があるのかと思いきや、その様子は今度は2人の前に現れた時とはまるで別人のように不審な影が見当たらない。
一体何を考え、どう行動しているのかがまるで見えない。
こんなわけのわからない人間は、そうそういるものではないとゾロは思う。
サンジはこれをどう思っているのだろうか、と金色の頭を探した。

それはすぐに見つかったが、瞬間、ゾロの眉間に皺が寄る。金色の髪のすぐ横に、視界に入れることを脳内拒否していた男の頭も見て取れた。

「・・・・・!」

立ち上がって、何か文句でも言おうと思ったのだが、その回りを見て「いや、冷静になれ!」と深呼吸をした。
良く見れば、サンジとロイの回りには自分達の仲間も揃っていた。
なにやら盛り上がっているようで、うお〜〜っ、とか、きゃ〜〜っ、とか喚き声とも取れる歓声が上がっている。彼らの視線はなにやらサンジに注がれているようで。
当のサンジは何かしら困惑した様子で苦笑している。酔いのために赤いかと思われた顔もどうやらそれだけではないようだ。
一体何の話かと思って、聞き耳を立てる。
一般の客は今はいない。他に騒ぎ立てる者もないため、その話は容易にゾロに届いた。





「そりゃあ、本当なのか?」
「あぁ、本当さ。今はただの客と宿の店主になってしまったけどね・・・。」
「へぇ〜〜〜。でも、ただの女好きだと思っていたんだが、それだけじゃなかったのかよ〜〜〜!」
「ロイとサンジくんがねぇ〜・・・。」
「これでも信じられないかな?」

そう言って、急にロイがサンジの肩を掴み、頬にキスをする。

「わっ・・・!てめぇ、ロイっ!!」

嫌がるサンジを気にも留めず、肩に置かれた手は離さない。
きゃ〜〜〜〜〜っっ!!
と歓声がまた上がった。



どういうこった!!みんなには内緒じゃなかったのかよ!!


あまりの予想外の展開にゾロの眉間の皺が幾重にも増えていく。
ゾロの怒りの気配がわかったのか、ロイがチラリとゾロの方を見た。それはほんの一瞬のことだったので、周りにいる誰もが気づくことはないものだったが何やら笑みを浮かべていた。

クソッ

舌打ちする。

まったくもってわけがわからない。何の目的があってこんな話を持ち出すのか?過去のことじゃないか。今更、昔のことを話し出してサンジを困らせるのが楽しいのか?見ろよ。サンジが困って、いつものナミやロビンに対する態度もまったく影を潜めているじゃないか。

そんなゾロの心も知らず、困ったサンジを余所に、勝手に話が進んで行く。

「一度は離れてしまった仲だけれど、こうやってまた会えたんだ。これって運命だと思わないか?」

同意の反応を求めて上目遣いに回りを見回す。

「そうねぇ〜〜。これだけ広いグランドラインで会えるなんて、ものすごい確立だわぁ〜v」

ナミなどは、まだ見ぬ王子様でも想像しているのか、頬を染めている。

「でもよぉ、男同士で運命って言われてもなぁ〜〜〜。」

ウソップがため息とともに呟いた。

「あら?ウソップは、カヤお嬢様とはただのご近所様だもんねぇ〜。」
「あっ・・・!カヤは関係ないだろうっっ!!」

慌てるウソップにクスクスと笑うナミは、すっかりロイの言葉に乗せられているのが容易にわかった。本当に男同士という突っ込みは何処へ行ったのだろうか。

「俺は別に構わないぞ、男同士でも・・。そういった種もあるからな!!」

チョッパーは医師としての知識もあるせいか、これまた人間以上に理解があるのだろう。
ロビンは黙ったままチラリとサンジを見て、酒を飲んでいる。
以前、ロビンが何かしら感じた心配が、結局こんな形でみんなに知れ渡ることになるとは想像もしていなかったのだろう。大きくため息を吐くとまた、コップを口元に運んだ。

船長のルフィはというと、最初は驚きの声を上げたが、それ以上は何も口出ししなかった。ただただ、ロイを睨みつけているといっても過言ではない程に、ロイを見つめている。
野生の感というものは、こういったことにも働くのだろうか?それとも、ただ単純にロイという人間の本性のようなものをこの会話の中に見つけたのだろうか。

肩を抱かれたまま、サンジはただただへにゃんと、眉毛を下げたままだった。
サンジとしては、ロイにはゾロを恋人と紹介しはしたが、ロイとのことも、ゾロがこの先サンジとの仲が発展しようとも、船の仲間には誰にもこのことは言うつもりはなかったのだ。
ロイとのことがあるからか、それとも別の理由があるからかはわからないが、サンジが讃える女性には特に知られたくなかったに違いない。


予定外に過去を暴露され、そして今また、この2人の仲を船の仲間に認めろと言われ・・・。
ロイが皆に知って欲しいことは、当然サンジにとっては知られたくなかったことで。
サンジの意思はまるっきり無視だ。
そして、今は恋人であるJJにことにはまるで触れず。
あまりに安直で勝手な言い分。

綿密な計算がされているかと思えば、あまりに短絡的な行動にゾロはため息とともに、新たな怒りが増すばかりだった。


すくっ、と立ち上がるとズカズカと足音を響かせて輪になっている仲間達のところへと向かう。

ずいっと現れた影に一同が驚いた。

「ど・・・・どうしたの、ゾロ?」

突然やってきた不機嫌な剣士は、ナミの言葉も無視して。

「行くぞ、クソコック。つまんねぇ話はこれで終わりだ。時間も時間だ。今日はこれでお開きだ・・・・。」

簡単に告げるとさり気なくロイの腕を外し、サンジの腕を掴んだ。

「・・・あ・・・・あぁ・・・。」

ポツリと小さな返事しかしないサンジに多少のイラつきを見せる。
こんなのはクソコックじゃねぇ、とゾロは思う。

それだけ船の仲間に過去を知られたことがショックだったのか。

覇気のないサンジを立たせて、そのまま部屋へとゾロは戻った。
ロイは苦情を顔に表わしたが、それでも何も言わなかった。JJはずっとロイを見つめたまま、息を潜める風にカウンターのところに座っていた。
他の者もゾロがサンジを連れて行くという行為自体には多少驚いているが、成り行きを見ているだけだった。
その中でやはり、船長はロイを見つめたままだった。















コンコン

ノックの音が聞こえ、サンジは一瞬ロイかとびくりとする。

「俺だ。」

声がなくても気配でわかるが、あえて声が発するのをゾロは待った。
ゾロはそれが誰だかわかっていたらしく、やはりルフィかと、ため息を吐く。

返事を待たずにガチャリとドアが開けられた。
お互いに話の内容はわかっているのだろう。めずらしく真剣な面持ちでお互いを見つめる。
ゾロが顎でソファを杓ると、それに従いルフィはソファに座った。

サンジは己のベッドの上でぼうっとしたまま煙草を吹かしている。
すでに何本目かわからないままに灰皿が山になっていた。ベッドで煙草を吸って、灰が零れたら面倒だと思うが、それは本人が片付けることなので、ゾロはあえて黙っていた。
ドカッと座ると勢いでルフィの身体が思い切りソファに沈んだ。
自分の様子に笑う屈託ない笑顔にゾロも口端を上げる。



「俺さぁ〜、仲間はみんな大好きだ。」
「あぁ・・・。」
「ゾロもサンジも、ナミもウソップもチョッパーもロビンも大事な仲間で、大好きだ。」
「そうだな・・・。」
「だけど、俺ってまだまだ子どもなんだろうな。あぁいった好きっていうのは、ちょっとわかんねぇ〜。」

ニカリと笑う笑顔はおどけているようにも見えるが瞳そのものは、真剣だった。

「あいつの言う、好きっていうのがよくわかんねぇ〜。」

ルフィの言うあいつが誰だかは、言わずもわかってしまう。

「・・・・・。」
「ゾロは、サンジの事が好きか?」
「・・・・・!」
「ゾロはサンジのこと、あの男と同じような好きって意味で好きなんだろう?」

サンジがルフィを振り向いた。
今まで我関せずを通していたのが、つい反応してしまった、という感じだ。

「・・・・・・あぁ、そうだ。好きだ。」

騙せない。
そう思い、本心を船長に告げる。
瞬間、サッとサンジの顔に赤が走ったのを横目で確認する。

「・・・そうか・・・。だったらいい。」

穏やかな笑みを向ける船長に、ゾロは、どう反応していいのかわからなかった。
それはサンジも同様だったようで、煙草を手に固まったままだ。

「サンジもゾロが好きなんだろう。」

断言とも取れる言葉にサンジが噛み付く。

「どうしてそんなことが言える、ルフィ!!」
「わかるよ、なんとなくだけど・・・。」

まったくこの船長は・・・。と、ゾロは手で顔を覆った。
対してサンジはそれを否定しかねない勢いだ。

「俺はまだゾロを好きだと言った覚えはない!」
「じゃあ何で俺とキスをする!!」

ルフィがいるのも気にせず、ゾロはサンジの言葉に反論する。

「てめぇが気になるとは確かに言った。・・・が、まだ好きになったとは言ってねぇ。お試し期間中だと言ったはずだ!」
「んだとぉ!いい加減、認めたらどうだ?俺のこと、好きなんだろうが!!」
「〜〜〜がぁぁ〜〜〜〜っっ!!んなこと言ってねぇ!!」

いつもの調子が出てきたようで、いつの間にかサンジはゾロのいるソファの前に来て、胸倉を掴む勢いで睨んでいる。ゾロももちろん負けん気だ。
これが本当に好き合っている同士とは思えない様子だが、そんなことは気にせず船長はシシシと笑って二人の様子を眺めている。

「てめぇも止めろよ、船長!!」
「なんで?」
「・・・・・だぁぁ〜〜っっ!!もうっ!!!!」

頭をぐしゃぐしゃと掻き毟るサンジにルフィが「じゃあ。」と立ち上がる。

「2人を見て、俺、安心した。・・・・俺、部屋、帰るな。」
「「は??」」

「ゾロ、サンジを頼むな!じゃっ、お休み〜〜〜〜!」

ヒラヒラと手を振る後姿に、一体何しに来たのかと??マークを飛ばしたまま、ゾロとサンジはルフィを見送った。

いいのか?いいのか,船長??船の仲間がニャンニャンな関係になっても・・・?!
い・・・・いや、既になっているし・・・。


一体ルフィは何を言いたかったのだろうかが、わからない。

お互いの目を見つめ、やはりお互いにため息を溢した。





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やはり、無駄に長い・・・。進まない〜。(>_<)。

2006.04.03.