過去と今と未来と13
朝食の時間にはまだ早いが、麦わら海賊団全員が1階の食堂部分に集合していた。 一つのテーブルを囲んで机の上を眺めている。誰もがみな、渋い表情を隠せない。 特に表立っては公表していないが、恋人として関わることを望んでいるゾロとしては、その惚れている相手、サンジの昨日までを何度思い出しても納得が出来るはずがなった。 ナミが皆を囲んでいるテーブルの上に置かれた一枚の紙切れをギュッと握り締めて、JJを睨む。 「どういういこと・・・・・、説明してくれる?」 その言葉使いはごくごく普通だが、声音がいつもと違う。ありとあらゆる衝動を隠しきれていないようで、振るえているのが、誰の目にも明らかだ。 「・・・・・・・ごめんなさい・・・。僕にも・・・・・さっぱり・・・・。今朝、起きたら、いるはずのロイがいなくて・・・・・・、捜したら、ここに本当にぽつんと一枚だけ書置きがあって・・・。」 その顔はすでに一度は涙したのか、頬に薄っすらと痕があった。 落ち着こうとした深呼吸は、JJにはため息に聞こえたのか、ただただ項垂れるばかりだった。 「でも、・・・・・・・こんなこと・・・・信じられない。サンジくんが、ロイといなくなるなんて・・・。荷物はどうなっているの?」 「ロイの部屋は殆どいつもと変わらないんだ・・・・。ただ旅行用バックがないのと包丁がないから、多少の荷物は持って出て行ったと思う・・。」 声だけでなく、ナミは、メモを握り締める手も震えていた。 「とにかく・・・・・捜しましょう。夕べはいたんでしょう?それに、いくら何でも夜中に海に出るなんてこと考えられないし、まだ街の何処かにいるはずだわ。」 バンッ!! メモを机に叩きつける音に促されて、JJ以外のメンバーはすぐに踵を返した。 誰もが宿を出る中、JJは俯いたままポツリと呟いた。 「もう・・・・会えないような・・・・気がする・・・・。」 その目線の先には、握りつぶされてしわくちゃになった紙切れが机の上に置き去りにされていた。 『ようやく決心がついた。2人でオールブルーに行く。捜さないでくれ。 ロイ&サンジ』 ゾロはその言葉をどうしても信じられないまま、街の中を走り回った。 「結局、いなかったのね・・・。」 「あぁ、それどころか、やばいゼ。」 ウソップが汗をダラダラ流したまま、険しい顔を皆に向ける。 一通りの情報を持った連中が帰ってきて、先ほどのテーブルを再度囲んでいる。 今日は、店などを開いている場合ではない。ドアの外には臨時休業の張り紙をした。 昨日まで普通に開店していたので、誰もが不思議に思ったに違いないが、有難いことに誰も店内に入ってくるものはなかった。 時間はすでに夜の外套が点く頃になっていた。 一度は、帰ってきても、情報が乏しいと新たに出かけて・・・・。ほとんどの者が、まともに食事を取っていなかった。コックがいたならば、そんなことは許しはしないだろうが、如何せん、本人がいないのだ。 誰もが食事を取る気分にならない。ただただ2人を捜して走り回った。 そうして一日が過ぎた。 「どうやら、夜中に船を出しちまったらしい。」 「え・・・・??本当??」 「あぁ、この店の常連さんが見かけたっていうから、間違いないと思うぜ。ちょうど見たのは、ロイが繋留している船の縄を解いているところだったっていうし・・・・おかしいと思って声を掛けたが、『ちょっと出かける。』って一言で済ませちまうし・・・。変な時間だとは思ったらしいが、ロイの向うに金髪の頭が見えたから、ただJJとちょっと出かけるところだと思ったらしいぜ。」 「ちょっとって、何よ。そこで引き止めてくれればいいのに!」 爪を噛むがもはや出てしまったものは、仕方がない。 「私は違うことがわかったんだけど・・・。」 「なぁに、ロビン・・・。」 ロビンは、淡々としたいつもと違い、多少、言い難そうに口篭ったが、伝えないわけにはいかない。 「コックさん達が持っていったエターナルポースがどの島への指針を表しているのか、わからないの。」 「どういうこと・・・?」 「街中を回ってわかったのは、2〜3日前にロイがエターナルポースをお店で買ったことは、間違いないんだけど。でも、実際に向かった島がどこへの指針を表しているのかわからないの・・・。」 「どうしてわからないの?お店で買ったんでしょう?そのエターナルポース・・・。」 ナミがロビンに突っかかる。 「10個買ったっていうの・・・、エターナルポース。」 「10個?」 ナミが皺を寄せるの見て、ロビンが再度続ける。 「私達が追いかけてくるのを恐れたのね・・・。」 「ロビン・・・。」 「10個のうち、どれを使ったのかわからない・・・。たぶん、全部船には持ち込んでいるんだろうけど、実際に船の向かう先はその中の一つ。私達がその10個のエターナルポースの指す先の島を知ったところで、その中から、どの島に向かったのかは本人達にしか、わからない。」 「なんてこと・・・。」 説明するロビンにナミは舌打ちする。 いつもより5割増に怒っているナミを見たら、言いづらいと重いながらも、再度ウソップが口を開いた。 「・・・・あ・・・・・・あのよぉ・・・・ナミ。」 「何よ、ウソップ!」 「サンジだけどよぉ・・・・・。」 皆の視線を集めて、ゴクリを唾を飲み込んだ。 「もしかして、本当にサンジは行きたかったんじゃねぇか?ロイと・・・。」 「えぇ〜〜〜〜っっ!!」 ごにょごにょと尻つぼみになっていくウソップと悲鳴をあげて泣き出すチョッパーに、バカな。と声がした。 今まで黙っていた船長が険しい目つきでウソップを睨む。 「お前・・・・・、ウソップ。本当にサンジがそうしたかったと思うか?黙って俺達の前から姿を消すと思うか?」 静かだが、いつにない空気を纏って船長はウソップを叱責する。 普段見る事の無いルフィの雰囲気にウソップは声を無くす。 しかし、それに気づかずに違う者がウソップの言葉を引き継いだ。 「でも・・・・・ロイとサンジさんが、行ってしまったのは、本当なんだ・・・・。・・・・・・きっと、サンジさんが、ロイを唆したんだ。」 ガタンと椅子が倒れる音とともに、JJの首が締まった。 それをしたのが一瞬誰だか、皆が皆わからなかった。 ぐぅっっ!! 「やめて、ゾロっ!!」 泡を吹きかねないJJに、呆然としたナミが声を荒げる。 同時にゾロの両脇から手が咲き、ゾロを押さえ込んだ。 「!!」 「落ち着いて、剣士さん・・・。」 ロビンの声が静かに辺りに響く。 ゾロは一瞬ハッとして、咄嗟に自分の行動が信じられないと、慌ててJJを離した。 「すまねぇ・・・。」 予想外の人物の行動に誰もが目を丸くしたが、何より本人が一番驚いているようだった。 ゾロ自身、こんなにもサンジのことにショックを受けている自覚がなかった。 本来なら、淡々として『本人の自由だから、気にせず放って置け』と言うのが今までの自分だったのに。他人に干渉するのもされるのも然程好きではなったはずなのに。 朝起きた時、JJの言葉に衝撃を受け。他の仲間同様に街を探し回った。 これだけでも自分の行動に驚きなのだ。 それだけでなく、JJの言葉に激昂した。JJも本心から言っているわけではないと頭の隅ではわかっているのに。JJもロイが消えて、ロイに置いていかれてショックなのだから、弾みでサンジのことを非難しても仕方がない状況なのに。 わかっているのに衝動を止められなかった。咄嗟にJJを締め上げてしまった。一歩間違えば、殺しかねなかった。 こんなにも。 こんなにもサンジを思っているとは。 どこに行ったんだ。 どうしてロイと消えてしまったんだ。 あんなにロイとのことは過去のことだと言っていたのに。 成り行きとは言え、自分の欲望まで受け入れてくれたのに。 自分の気持ちを受け入れる素振りさえ見せて。 この気持ちをお互いに大事に育てようとさえ、思っていたのに。 サンジに惚れている。 サンジに会いたい。 サンジに会って、サンジの気持ちを聞きたい。 ゾロは改めて、自分の気持ちの深さを思い知ることになった。 |
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第1部終了です。(←え?)
2006.06.15.