過去と今と未来と2−13




サンジのもとへみんなと一緒に行くという次の日。

朝、珍しくみんなが早くから揃った。
逆にいつもは早く起き、朝食の支度もみんなが揃うころにはしっかり作っているはずのJJの方が寝坊をして、みんなを待たせてしまった。

「すみません・・・・寝坊しちゃって・・・・。」
「いいのよ、たまには。私が作る朝食も久しぶりでしょう?」

そうニッコリ笑うナミが「目玉焼きをのせる皿を取って」と笑う。
ウソップが恐る恐る「これはいくらするんだよ?」と聞いてくる。ナミが「5000ベリーよ」と答えると、「ぎゃー」と言って、早々にウソップとキッチンに立ったばかりのJJが支度を始めた。
ウソップの協力もあり、思ったより早く朝食の支度ができた。

「サンジが・・・。」

「戻ってくると。」と言いかけたところでチョッパーが慌てて口を閉ざした。ゾロがギロリとチョッパーを睨む。
今、キッチンに立っているのはJJなのだ。
チョッパーもJJの作ってくれる食事に不満はない。それは誰もが同じだ。
それを証拠にみんな「美味しい。」と食事を口にしてくれる。
JJはそれがとても嬉しかった。

でも。
サンジがここに帰ってきたら・・・。
自分の居場所は?
そう思うと心が押しつぶされそうになる。

JJの気持ちを察したのか、ゾロがいつになく「美味い」を連発してくれた。その優しさに思わず綻んでしまう。


JJは夕べ、結局夜中に目が覚めてしまい、ずっと考えていた。自分はこれからどうなるのか。

ロイとのことは忘れられない。
こうなったのは例え「サンジの所為ではない」とみんなが口を揃えたところで自分はサンジを許せない。自分からロイを奪ったサンジを許せない。
だったら、今はもう自分のものになったゾロをサンジには渡さない。
サンジがこの船に乗ることになろうとも。
今度こそ、自分がサンジに勝つのだ。
自分が幸せになるのだ。
ゾロだって自分の方をきっと選んでくれる。
そう信じよう。


優しいゾロについ甘えてしまうが、それをゾロが許容してくれるのだから。だからゾロと一緒にいよう。
JJは寝坊したお詫びも兼ねていつもより給仕に力を入れた。















「サンジの店はこっちだ。」
「めずらしくよく覚えているもんだな、ルフィ。」
「そりゃあ、飯が食える店だからな〜。匂いでわかる!!」

力説しているルフィに感心しているチョッパー。
思わずウソップが突っ込みを入れる。
「あぁ、そうか。」と誰もが納得するが、当の本人は「俺だってやるときはやるんだ。」と怒っている。
なんだかとても明るい。当然か、サンジを今から向かえに行くのだ。

賑やかな町並みの中に麦わら海賊団のメンバーは、そのおどけた雰囲気で何故か溶け込んでいた。
誰も海賊だなんて思わないだろう。気さくに「よぉ」とか「おはよう」と声を掛けてくれた。とてもいい街だと誰もが思った。


店に到着すると扉に「CLOSE」の看板が掛かっている。
当たり前だ。まだ朝も早い時間だ。
それでも昔のサンジの生活からすれば、すでに起きて一服しているだろう時間帯。

ルフィが扉を押すとキィと音をたてて動いた。
鍵が掛かっていない所を見ると、やはり既に起きて何事か仕事をしているのだろう。
日はそれなりに上っているので店内は灯りがなくとも充分に明るかった。
カランと扉についている鐘の音を伴い扉を更に開けた。
ルフィが先に中を覗くと、「いらっしゃい」と声が掛かった。
声をした方向を見るとカウンター席にサンジが座っていた。

「早いな。こんな早い時間に来るとは思わなかった。」
「おはよう、サンジ。」
「あぁ、おはよ。」

そっけないが返事はきちんと返ってくる。
昨日のような拒絶はないように見えた。
先頭に立つルフィが奥に入ると次から次へと仲間達も店内に入ってくる。ルフィが「明日、仲間を連れて来る。」と言う言葉にルフィ1人ではないと思っていたがそのメンバーが複数来ているのにサンジは驚いた。

「お前の海賊団の仲間か?船長が若いだけあってなるほど、主要メンバーも若いな。あと何人いる?」

サンジの淡々と話す様子にやはり、記憶がないのだと改めて知らされた。本当なら飛びつきたい衝動に駆られていたチョッパーとウソップもあまりのサンジの変貌ぶりに押し黙るしかなかった。
ルフィはすでに昨日の様子がわかっていたので、何事もなかったようにやりとりをする。

「これで、全部だ。・・・・とと、違った。ゾロとJJが来ていないから、あと二人残っているか〜。」

サンジが眉を顰める。ゾロとJJというのは、昨日仕入れの最中に出会った二人だということをすぐに思い出す。
2人のやりとりを見ていた女性が思わず間に入る。

「サンジくんっ!」

オレンジの髪の少女が一歩踏み出すと、サンジの後ろに隠れるようにしていた女性がキッと睨むのに気が付いた。

「サンジくん・・・?」
「あなたも海賊なのでしょう?もうサンジは海賊を辞めたの。近づかないで!!」

サンジからではなく、第三者から言われる言葉にナミもカッとなる。たとえ今の恋人だろうと、口を挟んでもらいたくない事柄である。
ナミはその女性の言葉には知らない振りをしてサンジに向き直った。

「サンジくん・・・・。本当に覚えていないの?私はナミ。航海士よ。それから鼻の長いファンキーな顔立ちがウソップ、狙撃手で、トナカイが船医のチョッパー、黒髪の女性が考古学者のロビン。で、貴方がコックだったのよ。どう?」
「サンジ・・・。」
「サンジィ〜〜。」
「トナカイがしゃべるんなんて凄いな・・・、驚きだ、こんなこともあるんだな。・・・・だが、悪いけど、全然覚えていないんだ。」

口々に名前を呼ぶ面々に首を振るサンジをナミは悲しそうに見つめる。ウソップもチョッパーもいつものテンションがない。感情を押し殺しているようだ。
それは、「サンジの覚えていない」という言葉だけではなく、サンジの持つ空気からもそうなってしまうのだろうか。
いつも、口に咥えているものもないし、雰囲気もまるで他人とまではいかないまでも、あの女性にくねくねする一見ふざけている様にも見えるが、実はそれでナミ達を楽しませてくれた明るい空気もない。
とても冷静というよりも、海賊団の連中を冷めた目で見ているからだろうか。

「タバコ・・・・・吸わないの?」
「タバコ?」
「そう、タバコ。貴方が今タバコを口にしていないのを見るのが不思議なくらい、いつも口に咥えていたわ。これよ。船にもまだ残っているわ。」

そう言ってポイッと投げて寄越した。
椅子に座っているサンジの膝にそれが飛び込んでいる。サンジにはそれが見覚えがあるか?と聞かれても、やはり覚えていないだろう箱。

「嘘よ。コックがタバコを吸うなんて。舌が悪くなるわ!サンジは一流のコックなのよ、タバコを吸うわけがないじゃない。貴方達、一体何者なの?サンジの仲間だと言って、サンジを何処へ連れて行くつもり!!」

感情的になっているのか、声のトーンが高くなるマリアに皆が非難の目を向ける。
サンジに話をしているのだ。サンジの意見を聞きたい。
そう思うのに、恋人だろう女性に邪魔をされているような気がしてならない。
が、サンジはその女性を大事に思っているのだろう。彼女の髪を優しく撫で擦る。

「マリア、落ち着いて。何だったら部屋へ行ってた方がいい。」
「でも、そうして貴方が連れて行かれてしまったら!」
「俺はどこにも行かないから。」
「でも、・・・私もここにいる・・。」

恋人同士というのは、本当だろう。サンジの彼女への気遣いはとても優しい。女性の方も、こちらに向かってくる言葉や視線は厳しいものとしても、サンジのことをとても心配しているのはわかった。
でも、だからと言ってこのまま引き下がっていいものだろうか。

サンジの夢はどうなる。
ゼフとした約束はどうなる。
サンジを捜したこの半年間はどうなる。
自分達のサンジへの仲間としての思いはどうなる。

ゾロの想いはどうなる。


ナミは再度口を開いた。今度は、涙目になっている女性に気を使った。同じ女だからだろうか、敵ではないにしても自分がこんなに強気に出ないのも珍しいとナミは想った。それがロビンにもわかったのか、苦笑している。

「マリアさん・・・だっけ?私たちは、無理矢理彼を連れて行くつもりはないわ・・・。ただ、私たちは大事な仲間を取り戻したいだけ。」
「仲間・・・。」
「それに、このままここで暮らすのがサンジくんにとって幸せかどうか・・・。前のサンジくんだったら、ここで静かに暮らすのが彼の幸せだとは思えないわ。サンジくんにも大事な夢があるもの。」
「夢・・・。」

昨日、ルフィにも言われた言葉だ。
奇跡の海を探していたという前のサンジ。この島でずっと暮らしていたら見つからないだろう、どこかにある海。
それを記憶を無くした今も、心のどこかで求めているのだろうか。
サンジは一晩中悩まされた頭痛に再度、頭を押さえる。

「百歩譲って、夢の為にお前達の船に乗ったとしても、仲間と言う言葉には引っ掛かる。」
「え?」
「昨日の船長のルフィはいいとしても。その前の剣士、ゾロだ。なんで仲間なのに、俺は殴られなきゃいけない。消えた仲間を捜し当てて漸く見つかった嬉しさっっていう言い訳は聞かないぜ?あれは俺を憎んでいる目だ。そもそも何故、俺は仲間だったあんた達の前からいなくなったんだ。何故、お前達はいなくなった俺を捜していたんだ。一体何があったんだ?」

サンジの矢継ぎ早な質問に誰もが声を詰まらせる。答えることができる者は誰一人いなかった。

「それは・・・・。」

口篭るナミにサンジとマリア、二人から非難の目が向けられる。

「それが答えれないようなら、あんた達の言葉を信用できない。なんせ俺は覚えていないんだ、あんた達と一緒にいたという事を。今、ここで暮らしていることが俺にとって全て真実だ。」
「・・・・・。」

誰もが答えられない静けさに思わずチョッパーが涙をする。


「サンジィィ〜〜〜〜〜。帰って来てよ・・・。」

我慢していたものが噴出したのか、今まで口を真一文字にしていたチョッパーが泣き出した。
えぐえぐと泣くチョッパーがウソップに抱きついた。
ウソップもそれに釣られたのか、一緒になって涙を溢しだした。

「サンジィ。・・・俺達も何にもわからないんだぁ〜〜〜。でも仲間なんだぁぁ!」

とても海賊には思えない二人にサンジが目を細めた。愛らしいトナカイに涙もろい狙撃手。こんなのが本当に海賊なんだろうか、そして仲間だろうか。
でも、涙を流す二人を見ていると不思議と、少しずつだが温かいものが込み上げてきた。
何だかどこかで見たことがあるようなないような。
サンジもこの二人の空気の触発されたのだろうか。
緊張していた糸が緩んだらしく、張っていた頬の筋肉も揺るむ。

「コックさん、悪いけど、本当に何があったのか、私達もわからないの。ある日、突然ロイと一緒に貴方も消えてしまったのは本当なの。この書置きを残して。」

今まで黙っていた黒髪のロビンが徐に取り出した紙切れを受け取り、見つめる。
そこにはロビンの言うとおり、紙に書置きらしい言葉が残されていた。ロビンの言う事が本当なら、自分達からこの海賊団を離れたということではないのか。だったらやはり戻るのは避けるべきだろう。

「これ・・・。」

紙切れを見つめるサンジの意図がわかったのだろう。ロビンが言葉を続ける。

「書いたのは、たぶんロイ。彼が全てを知っているはずなのだけれど・・・。でも、貴方達が私達から逃げる理由がないのは本当よ。」
「でも、だったら何故?」
「私たちが知っている全てを話していいかしら。そこのお嬢さんには、ちょっと辛いと思うけど。」

チラリを目をやるロビンをマリアは正面から受けた。

「聞くわ。」
「貴方が今、コックさんの恋人なら覚悟がいると思うけど。」
「ロイとサンジが恋人同士だったっていうのは聞いているわ。大丈夫よ!」

キッと相手を見つめるマリアにサンジは閉口する。
一見ひ弱に見える女性だが、芯は強い、と時々思う。

ロビンはルフィと船の仲間を一瞥すると「座っていい?」とテーブル席の方へと歩いた。
他の仲間もそれなりに知っているのだろう。ナミはため息を吐いたが、それぞれが店を出て行くこともなく、近くにある椅子についた。
マリアはギュッとサンジの腕にしがみ付いたままだったが、ロビンを睨みつけるように見つめていた。





それなりに覚悟はしていたが、ロビンの口から聞かされた話にサンジは辟易としていた。






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2006.12.15.