過去と今と未来と2−17




街中はまだまだ賑やかな時間帯だった。
夜の街を多くの人が通り抜ける大通りを通り過ぎ、怪しげな空気を纏う通りへと向かう。

ゾロは前を睨んだ。
いつもなら迷う事が得意とばかりに目的地に辿り着けないが、今回はルフィ達に言った言葉通り、気配を追うだけで目的地に辿り着けそうだ。
それだけかなりの殺気を感じる。

「大丈夫か?コックのやつ・・・。」

最初は早足だったのがいつの間にか駆けていた。

ルフィ達が言うとおり、サンジは強い。それはゾロも知っている。
通常なら何の心配なく、彼一人に任せられるだろう。
が、今は記憶がない。自分達に会うまでたった一人でここで戦いをしていたということだが、それが実際にどれだけの戦闘力で相手もどれだけの強さを持った者だったのか知らない。
この島を見る限りだと呑気な様を感じた。それほど強くなくても生きていけるだろう風土を持っている。
今まではそれで済んだだろう。
が、今回は相手は海賊。自分達に恐れをなして逃げをうった連中としても、実際に戦闘力を見たわけではない。気配で大した連中ではないと判断はできたが、それが今のサンジの実力との兼ね合いまではわからない。
しかも、一人対多勢だ。
聞いた話から想像するに、そういった戦いにはきっと慣れていないだろう。


真っ直ぐに暗闇を睨んだまま殺気のする方向へと走った。



しばらくすれば、街外れまで出てしまった。
当たり前か、街中で騒ぎを起こすほど、彼らもバカではないだろう。
もう少し行けば、山に入る領域だ。家々もない。たぶん畑などが続いている地域だろう。平坦な地面が暗い影でわかった。



「チッ」

舌打ちをした。
遠く響いてくる音は戦闘による男達の喚声か。
やはり、一対一の勝負などではなかった。明らかに卑怯な戦いを行っているだろう。

ゾロは回りを一睨みした。

どこだ!?

ぐるりと見回すとまだ遠く黒い影にしか見えない塊が、大きな輪の影の中心で動き回っているのが確認できた。

「あれか?」

その影の動きの様子から察するにケガをしているかもしれない。動きがおかしい。
「ちょっと見てくる」という約束はどこへやら、ゾロは素早く抜刀し、その輪の中心へ向かって吼える。



「クソコック!!」

一旦は蹲っていたのだろう黒い塊がムクリと起き上がった。

「竜巻っっ!!」

グルリと勢いをつけて輪になっている海賊達を吹き飛ばす。
が、予想以上に彼らの人数が多かった。よくここまで持ったもんだと関心する。記憶がなくてもかなり戦えるのだと改めて感心した。

「・・・誰だ!」

サンジの声がゾロの突然の出現で静まり返った空間に響く。が、やはりいつもに比べて覇気がないように思う。

「俺だ!」

俺じゃわからないか、と改めて声を掛けようとして「ゾロ!?」と呼ばれたことに妙に嬉しさがこみ上げた。

勢い突進してきたゾロに圧倒されて、思わず後ずさりする敵の隙をつき、一気にサンジの元まで辿り着く。
立ち上がったサンジは肩からも足からも血を流していたのは、すぐ傍まで来て、わかった。

「大丈夫か?」
「一体どうして・・・・。」

呆然と見つめるサンジに「細かいことは後だ」と前を睨みつける。
正面にはどうやら敵の大将らしき大男が立っていた。大勢の彼の部下は、まわりに立ちはだかって二人を囲む。ゾロが突破して来た路もすぐに塞がれた。
が、回り全てを囲まれてもゾロの不敵な顔は変わらない。

「誰だ?てめぇ・・・。」

大男が突如乱入してきたゾロを不審気に見る。

「お前こそ何だ?この島を狙ってる海賊がいるって聞いたがお前らがそうか?」
「関係ないだろう、てめぇには・・・。俺達が用があるのはそこの兄ちゃんだ。どいてもらおうか・・・。」

ペロリと舌なめずりした大男にゾロは目を細める。

「あいにく、俺もコイツに用があるんでな・・・。悪ぃな。」

そうニヤリとする顔に横槍が入る。

「俺の相手だ。お前は関係ない・・・・。」

ゾロの肩に手を置き、前に出ようとするサンジがグラリと傾いた。

「コック・・!?」

さっと手を伸ばし、倒れそうになる体を支えるとぬるりと手が滑った。
慌てて抱え直しながら滑った手を見ると真っ赤に染まっている。

「おい」

顔を覗けば、さっきは気が付かなかったが、かなり青白い。これは、とゾロは焦る。

「てめぇ、今にも倒れそうじゃねぇか・・・。お前、一人でこいつらとやりあえる状態じゃねぇ。」

苦言を溢すと、サンジは支えられた手を払おうとするが、それは空を切った。
かなり酷い状態のようだ。たぶん、立っているのもやっとだろう。それだけ脇から血が流れ、触った傷口は深く抉れていた。
ゾロは回りを一巡して思案した。


このまま戦うには不利か?

引くか進むか、一瞬の判断をゾロが口にしようとしたら、相手の大将がヒヒヒと厭らしい声で笑い出した。

「まぁ、どちらが相手でも俺は一向に構わないぜ?どうせ、もう、時間だ・・・。」
「・・・?」

トントンと大刀を肩に担いで笑う男にサンジとゾロの目があった。

「てめぇ・・・・・。まさか・・・。」

サンジの声が震えている。

「なにかなぁ〜。あぁ〜〜〜ん?」

含みを持たせて笑う声に、ゾロが睨みつける。

「卑怯な手を使ったな・・・・。」
「俺様の辞書には卑怯と言う言葉はねぇ。作戦って言ってほしいな・・・。」

ギリリと噛み締める歯の根が、傷以上に痛みを連れて来る。

「まぁ、俺様の作戦は完璧だからな。今頃は店の方も綺麗さっぱりに片付いているだろうよ。」
「!?」
「そして、お前らもここでジ・エンドだ。かわいい彼女と一緒にしてやれなくて悪いが、あの世で会いな。」

下卑た笑いが止まらない男は、顎で部下に指令する。
さっと回りを再度固められ、退路も絶たれた。この状態では、店まで戻ることも容易ではない。況してや、下品な男の言葉が本当であれば、今から店に戻っても間に合うかどうか。
俯いたサンジが怒りに震えるのがわかった。
己の傷のことを心配している場合ではない。怒りでさらに脇から血が吹き出る。

「サンジ・・・。」

ゾロは何を言っていいのかわからないまま、サンジの名を口にした。
その声も彼の耳には届いていないのだろうか。俯いた顔が上がらない。

ゾロは、すっとサンジから身体を離すと、目の前に立つ大将に向き合う。
咄嗟に離された体にふらつくが、そこは気力で立ち止まるサンジにゾロは振り返らず言葉を改めて掛けた。

「コック。俺に付いてこれるか?この男は俺が片付ける。」
「ゾロ・・・?」
「その程度のケガならまだ、戦えるだろう?」
「・・・・当たり前だ!!」

語尾に苦しげな呻き声も混ざるがそれには気が付かない振りをした。

「路は俺が開ける。一瞬が勝負だ。いいな。」
「・・・・わかった。」

二人のやり取りを聞いていた男は、笑い声を止めないが、怒りのための皺が一本一本と浮き出てきていた。

「貴様ら、この俺様から逃げられると思っているのか?たかだかこの小さな島のチンピラの一人や二人、海賊の相手にゃ、ならねぇぜ?」

大刀を振りかざす勢いで喚く男にゾロがニヤリと笑みを溢し、腕に縛っていたバンダナを頭に巻く。

「悪ぃな。俺たちも海賊だ。しかも、てめぇより、強ぇぞ・・・。」
「あぁ?」
「てめぇら、この間、俺達の船見て逃げただろうが!」
「な・・・。」

ゾロの言葉に男が絶句する。先日、出会った船のことを思い出したようだ。

「貴様・・・。まさか、麦わらの!」
「俺達の船長を知っているのか?」

ゾロの鋭く光る眼を見て、大刀を持っている男の手がゆっくりと下がってくる。

「おまぇ、まさか・・・。いや、お前の腰には刀が二本しか・・・・・。」
「あぁ、お前達には三本も必要ないからな。一本はお留守番だ。」

ニヤリと笑い、両手に刀を持つ。
言葉は正面の敵に放たれているが、一瞬チラリとサンジに視線を動かした。
サンジは誰にもわからない程度に、頷く。

「おまえ・・・ロロノア・ゾロなのか?」
「だったらどうする?」

ゾロの口端がさらに上がった。
凶悪な面で睨みをきかせば、まわりにいた部下共が恐れおののき、後ずさりする。
サンジはその様をまるで人事のように見つめていた。
まるで鬼のような形相に誰もが震え上がっているだろうに、自分はその隣で何故か高揚感で体中が震える。怖いという感情はまったくなかった。それどこか酩酊したようだ。ゾロの一挙手一投足に酔う。
しかも、昔、感じたことがあるような酔いにサンジは溺れてしまいそうだった。


どこかで・・・。


思考の渦に囚われそうになったところに、ガチャリと唸った刀の音でハッとする。
正面を見つめれば、後ずさりしていた部下に大将の男が唸り声を上げて怒鳴っていた。

「嘘だ!こいつは刀を二本しか持ってない、真っかな偽物だ。恐れることはねぇ!」
「まぁ、いいけどよ。」

表情は変えずにのほほんと返すゾロに男の顔が真っ赤に染まる。

「かかれ!」

大将の合図と共に、ゾロもサンジに声を掛ける。

「行くぞ!!」
「おうっっ!」

脇から溢れる血は止まらず、痛みは増すばかりだが、そんなことは言ってられない。
街の方が。店が心配だった。
これが劣りというなら、敵の狙いは街を占領することだろうか。

グッと歯を噛み締めて、サンジは先に走るゾロに続いた。

「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

ゾロが技を掛けるべく、刀を両手に大きく振るう。
その動きに合わせて突風が起こり、敵が大きく吹き飛ばされた。
その勢いは凄まじいもので、大男である大将をもはるか遠くに飛ばした。
真正面にできた、突破口目掛けて二人は走った。

ゾロの勢いに飲まれたのか、それとも、作戦が成功したと判断したのか、走り去る後からは誰も追ってはこなかった。




























途中何度も道を間違えそうになるゾロにサンジは怒鳴りながら、二人は街中へと急いだ。
だが、間々サンジの足が縺れ、転びそうになる。

ふ、と振り返り、ゾロが手を差し伸べた。

「なんだ・・・?」

ぶっきらぼうに睨みつけるサンジに遠慮せず、ゾロは差し伸べた手を引っ込めない。

「ケガ・・・酷いんだろう?応急処置だけでも先にしとかないと。」




ゾロの声もぶっきらぼうに発せられているが、その中にほんのりと柔らかさを感じるのはサンジの気のせいだろうか。
会った瞬間、いきなり殴りつけ、足早に去った再会。その態度に敵かと思うほどだった。
が、その後、迎えに来たという仲間と一緒に店に来て、彼の口から出た言葉は、辛辣なものにも思えたし、仲間としての優しさも感じられた。一体、ゾロはサンジのことをどう思っているのかとわからなくなっていると、帰り際に溢したセリフは仲間として自分を待っているように思えた。
かといって、結局他の仲間と一緒に飯を食いに来ることはなく。


今はまた、不器用にも己の服を裂いて包帯代わりにし、サンジの脇のケガを手当している。

サンジは道端に大きくせり出しているほどよい大きさの岩に座り。手当をするゾロを眺めた。
膝をつき、サンジの脇腹に包帯代わりの布を巻いている。

「ゾロ・・・・。」

名前を呼ばれて、ゾロはサンジを見上げた。
その瞳は暗い景色の中に金色に光っているようにも見える。
が、サンジは一体ゾロに何を言いたかったのか、自分でもわからなかった。

「応急処置は済んだ。急ごう。」

小さく呟いた声は、やはり温かいもので。
サンジは戸惑う。
この男の本音が知りたい。

が、ゾロの言うとおり、時間がないのも確か。
街ではイネストロとマリアがきっとサンジの帰りを待っていることだろう。
何事もなければいいが、先ほどの男の言葉が耳に残っている。



どうか無事でいてくれ。




湧き上がるゾロへの思慕は無理矢理胸の奥へと仕舞い、街にいるみんなの無事を祈ってサンジは足を進めた。





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2007.01.17.





ちょっとゾロサン?