過去と今と未来と3−19
次の日も快晴。 街を散策するには、気持ちのいい天気だった。 実際はそんなのんびりとしたものではないだろう。が、暗く澱んだ空気は誰も好まない。 ましてや船長が天然とも言える明るい性格ならば、誰しもがそれに水を差すような顔はしたくない。 「さて、朝食も済んだ事だし。今日はどうする?昨日は誰も収穫がなかったみたいだから、調査の場所を変えた方がいいかしら。」 ナミは、回りにいる皆を一眺めして言葉を発した。 今日も調査が続行するのは昨日確認済なので、後は調査場所や割り振りだ。 「俺ぁ、もう一度ルフィと怪しいところがないか、街を歩いてみるよ。ルフィの野生の勘も昨日は何も嗅ぎ付けなかったが、今日は何かわかるかもしれないしな・・・。」 ウソップがルフィの隣で胸を叩く。ルフィもにししと笑って「おう、任しとけ!」と叫んだ。野生の勘で何をかぎつけるのかは分からないが、『煙草』の匂いを嗅ぎつけるならチョッパーの方が適任だろう。それでも、ルフィが冒険を後回しにして動いてくれるのだ。仲間のことなのだから、それは当然と言えば当然なのだろうが、そこは誰も突っ込まなかった。 「私とロビンももう少し裏町を探してみるわ。それらしい怪しい店が何件かあるんだけど、まだターゲットには中らなくて。今日は、見つけるわよ!」 ナミも息巻いて立ち上がった。 「俺、まだ行ってない病院があるから、そこに行って聞いてみる。もちろんサンジも一緒にな!」 チョッパーがサンジを見上げて言った。 が、サンジはチョッパーの言葉に頷かなかった。 「悪い、チョッパー・・・。それから。・・・・・・ナミさんも他のみんなも・・・・聞いて欲しいんだ。」 サンジの浮かない顔に何かあるのか、みんなの視線が集まる。 「もう『煙草』のことはいいんだ。そもそもどこにあるかわからない島なんだろう?その『煙草』に関係している島ってのは・・・。そうそう情報を持っているのが、いきなりこの島だってはずはないだろうし・・・。俺は、もう大丈夫だから。記憶が戻らなくても航海はできる。過去に囚われてみんなに迷惑を掛けるよりも、オールブルーを見つけるという夢を、俺はもう一度見たいんだ。だから、もう、いいんだ。せっかく俺の為に動いてくれている皆には悪いが、先に進もう。」 「サンジ・・・・。」 シンと静まりかえるラウンジでルフィが声をかける。 「いいのか、サンジ。それで・・・。」 「あぁ、船長。お前ならわかるだろう。記憶があろうがなかろうが、俺は俺だ。夢も変わらない。」 サンジは真っ直ぐにルフィを見つめた。 「サンジ・・・・。お前・・・。」 ルフィも真っ直ぐにサンジを見つめた。 サンジの瞳に何かを感じたのか、一旦、口を開きかけたが、それは閉じられた。 「わかった・・・。」 目を伏せてサンジの言葉を了承する。 「サンジがそれでいいなら・・・。」 言葉を一旦区切り、今度はJJに向き直る。 「JJはいいのか?それで。ロイの疑いは晴れちゃねぇ。中途半端のままで納得できないんじゃないか?」 ルフィの言葉にJJの脳裏に昨日のサンジの言葉が思い出される。 『俺もお前も、ロイという男をよく知っているが、他の皆はほんの一時期の彼しか知らない。真実を知ることで、ロイの本当を皆に知られることで、ロイのことを傷つけることになってもいいのか?それに、ロイの奥底をさらに知ることで、自分を傷つけることになってもいいのか?』 『JJ。今でこそお前にはゾロがいるが、今でもロイのこと、好きなんだろう。だったら、ロイの過去を知って平気か?』 『もう彼は死んだんだ。死者のことをこれ以上暴く必要はない。』 信じたくないが、JJには知らないロイの何かをサンジは知っている。 それは、自分のロイへの想いを歪めてしまうほどのことなのだろうか。 その何かを。ロイの真実を知った時。もし、ロイが自分の知らない醜い部分を持っていたとしたら、自分は耐えられるだろうか。サンジのように何事もなかったように振舞うことができるだろうか。 JJはギュッと眼を瞑った。 多分耐えられないだろう。 自分の知っているロイは。 身寄りのない自分を拾って雇ってくれるとても優しくて暖かい人だった。 料理が上手で。 接客も上手で動きがしなやかで。その時に揺れる髪は流れるように綺麗で。 そんなロイに見とれて、時々してしまうJJの失敗にも笑ってくれて。 孤独で寂しがりやのJJのことを優しく抱きしめてくれて。 いつかしか、「愛している」と囁いてくれるようになった。 煙草は、止めて欲しくても止めてもらえなかったけど、でも、情事の後に煙草を吸っている彼を見るのは好きだった。 そんな優しくて素敵なロイが過去の恋人を再び手に入れるために、薬を使って、彼を騙して、自分を騙して・・・・・・。 逃げるわけがない。 全てはサンジが仕組んだ事なのだ。サンジが全て悪いのだ。 サンジもそれでいいと言っている。 なんてったってサンジはJJに謝ったのだ。 死んだロイをこれ以上悪く言いたくない。 「・・・・・・・昨日・・・・・・・サンジに暴漢から助けてもらった。」 突然、違う話題になり、みんなが揃って眉を顰める。ナミやロビンは夕べ、サンジからその話は簡単にだが聞いていたので今更だったが、その話を何故今するのかはわからなかった。が、何かJJにも意図があると踏んだのだろう。二人とも口を挟まなかった。 「それで、その後、サンジと話をしたんだ。」 「待て、JJ。その話は・・・・。」 JJの言葉に反応したのはサンジだった。 サンジは止めようとする。 JJは真っ直ぐにサンジに顔を向けた。その表情に思わずサンジも口を挟めなくなってしまった。 いつもの嫌味を言ったり、悪意の目で見つめるでなく、いつになく真摯なJJだ。 「その時にサンジは僕に謝ったんだ。悪かったと。」 ゴクリと唾を飲み込んだのは、意外にもゾロだった。 「それって・・・・・サンジの記憶が戻ったのか?だから、JJに・・・・?」 思わず身を乗り出して問うたウソップに、うぅんとJJは首を振った。 「そうじゃなくて・・・・・。ただ、単に区切りをつけたかっただけだって・・・・。サンジもきちんと謝ったから・・・。僕もそれで終わりにする。僕ももういいよ。」 「JJ・・・・・。」 隣に立ったゾロにJJは顔を向けた。 「ね・・・・。ゾロも、それでいいでしょう?」 ゾロの気持ちは、夕べ聞いている。 ゾロは既にサンジへの憎しみはない、とゾロ本人の口から聞いている。 そして、JJを恋人として選んでくれたことも。 それを改めて確認するように、JJはゾロを見上げた。 「あぁ。俺もそれで異論はない。これで全て終わりにしよう。」 JJの肩を抱きながら、ゾロも同意した。 「ゾロ・・・・。本当にそれでいいの?」 ナミが念押しする。 じっと見つめるがその眼を逸らすことなく、ゾロは頷いた。 「あぁ、それでいい。」 これで全てのことに終止符をつけて、新たな冒険へ向けて出航する。 まだこの島のログは溜まっていないが、調査活動も止めて、のんびりとこの島で過すことを当人である三人は提案した。 「何だか納得できないけど・・・・・。三人ともがそれでいいなら・・・・・。」 ため息を吐いて、ナミが座っていた椅子から立ち上がった。 「じゃあ今日は、各自、自由に過しましょう?もちろん、トラブルはなしよ!まだログが溜まっていないんだから!特に・・・。」 コツコツとハイヒールを鳴らして船一番の問題児の前に立つ。 「ル・フ・ィ!・・・・・あんたが一番気をつけないといけないんだからね!!」 ぎゅっと頬を引っ張って顔を揺する。 「ひゃい・・・・。わはりはしは!」 「わかれば、よろしい!!」 今いち機嫌が戻らないナミだったが、ルフィの言葉ににっこりと微笑む。もちろん、作り笑いであることは、否めない。 「じゃ、私はのんびり買い物にでも、行くわ。ロビンも行く?」 「そうね・・・。新しいブーツが欲しかったところだわ。」 「じゃ、行きましょう。」 ナミは早々にロビンと共に、船を降りていった。 「じゃあ、俺も買い物でも行くか?欲しい部品があるんだ。チョッパーも行くか?」 「あ・・・・行く行く。ウソップの新しい新兵器の部品だろう?ぜひ見てぇ!」 それまで真剣な顔で息を詰めていた二人も早々に出かけていった。 ルフィはと言えば、気がつけばもうラウンジにはいなかった。 「早ぇヤツ・・・。」 ゾロは苦笑してJJに向き直った。 「まだ今日も買出しするんだろうが。」 「ぅん。今日の買出しも一緒に行く約束だったから・・・。いいよね?」 「あぁ。」 お互いに穏やかな笑みを溢す。 そのまま二人して、他のメンバー同様に船を降りるべく外へと向かった。 その時、ゾロがサンジをチラリと流し見するが、何も言わずにJJの肩を抱いたままラウンジを後にした。JJはもちろんそんなゾロに一瞬、眉を顰めるが同様に何も言わずにされるがまま一緒に出た。 その様子を見届けて、サンジはなんともなしに笑う。 「これで良かったんだ。全て、これで終わりだ。」 昔ならそのまま煙草を手に取ったが、今は煙草は手元にない。記憶がないままに煙草を手放したことになっているのだから仕方が無いのだが。 なんだか手持ち無沙汰だったが、肩を一瞬竦めただけで、サンジも足を外に向けた。 「店にでも行くか・・・。」 店とは昨日訪れた老マスターのいる店である。 まだ開店前だろうが、裏口の場所も確認した。労せずともきっと入ることはできるだろう。 誰とも無しに独り言を呟くと、サンジもそのままラウンジを後にした。 |
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2007.12.05.
一旦決着がついたようだけど、まだ終わらないので〜〜〜。あくまでゾロサン!!