膿 ー19ー
あれからどのくらい時間が経ったのだろう。 まだ遠くでザワザワするから、大して時間は経っていないのだろうが・・・。それでも一人でいる不安からか、かなりの時間が過ぎたような、そんな気が岬にはした。 「若林くん・・・・。」 ポツリと今、ここにいない人物の名を呼んでみる。 「おうっ」 意外にもすぐ返事が返ってきて、ついビクリとしてしまう。 「・・・・!若林くん、いつ・・・?」 「今、戻ったところだ・・・。悪いな、一人にさせて・・・。」 上手く事が運んだ所為か、若林は自信を感じさせる顔をしている。 「じゃあ、行こうぜ。」 車に乗り込み、そのままキーを差し込む。 「何処へ?それに、いいの??」 自分がこの車に連れて来られてから、一体何がどうなったのか、岬にはさっぱりわからなかった。 「あ〜〜〜〜〜・・・・。まぁ、小火騒ぎも落ち着いたし・・・。とりあえず、ここから離れよう。」 そう言って、まっすぐ前を向いて、若林は車を発進させた。 ここは、ホテルの駐車場ではなく、近くの公園に隣接してある駐車場だということを、若林の説明で漸く岬は理解した。 だから、暫くホテルから走ったのか・・・・と裸足のままの足先を見る。そして、バスローブを纏ったままだった。 この車に乗るまで誰にも会わなかったのは、幸いだ。本当に偶然とはいえ運がいい。 誰かに見られたらどうするつもりだったのか・・・・。若林に尋ねたら、苦笑しながらそこまで考えていなかった、と言う。 そして、小火騒ぎも衝動的に浮かんだものだと若林は言った。 倉庫の一室に火をつけただけで、もちろんそれなりに設備を確認はしたという。警報機も自分で鳴らしたとも説明した。 咄嗟に浮かんだこととはいえ、それなりに考えてのことらしいが、それにしても、本当に上手く事が運んだのが不思議でならなかった。 結局、一度、岬を若林の車まで連れてきて、ホテルに戻ったのも、様子を見るのと、一応は宿泊客になっているのだから、雲隠れしては反って拙いだろうという判断からだったらしい。 例の岬の客である男は消防隊に救助されたらしいが、特にケガもなく。本人も一人で泊まっていたと言っているらしい。岬の名前どころか、誰かと一緒だったという事実はないことにされていた。 多くは無かったが、消防車も出動して、救急車も横に並んでいた。が、すでに火は消えたので、問題なく、後片付けをしている。 ホテルの従業員は、外に逃げ出した客の対応に追われて、バタバタと走り回っていた。 そんな中、若林は小火騒ぎの理由で、ホテルを引き払うことにし、ホテルに入る理由づけとして同伴していた女性にもそれなりにお礼をして車に戻ってきたということだ。 岬はため息を吐いた。 行き当たりばったりに近い。 小火で済んだから良かったものの、本当に大きな火事になったらどうするつもりだったのか・・・。 「確かに考えなしの行動が多いが、バカじゃないさ。」 と若林は笑うばかりだった。 が、ハンドルを握る手に汗が染みているは岬の目に入った。 キュッ、とその手の上に掌を置く。 どうした、と若林は前を見つめたまま、聞いてきた。 岬は答えることができずに、ただただ若林の肩に顔を埋めた。 岬の吐息を感じて、若林は重ねられた手を外すと、そっと岬の肩を抱いた。 そのまま、車は真っ直ぐな道を進んだ。 |
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短いです。すみません。
2006.06.27.