過去と今と未来と2−22
「一体、どこ行ってたのよ、ゾロ!もう、今日中に出航できないかと思ったじゃない!」 ナミの言葉に「悪ぃ」と軽く謝る。 「ちょっと、・・・な。」 そう言葉を濁すゾロに隣で縄を持ち、出航準備に取りかかっていたJJが眉を顰める。 「もしかして、サンジ・・・のところ?」 JJの言葉にナミも眉を顰める。 「え?ゾロ・・・行ってきたの?」 ナミの物言いたそうな態度とは別に、責めているわけではない、と暗に言っている顔をしているJJだったが、それでもその瞳の奥に見えるJJの想いに、ゾロはなんとなくJJに申し訳ないと思った。 「まぁな・・・。会えなかったが。」 ゾロの言葉を聞いて、やはりほっとしているJJにゾロはこれで良かったんだ、と心の中で納得する。 それとは対称に船長の方は、目に見えて不機嫌だ。 「俺はサンジにきちんと返事をもらってねぇ・・・。」 今だ未練があるのだろう、ログが溜まってから同じ言葉をまたもや呟いている。 「だから、私がきちんと返事をもらったわよ。ここに残るって!もう、あんたが行くと話がややこしくなるから、私が行ってきたのにぃ!いい加減にしてよ!!」 半ばヒステリックにナミはルフィに怒鳴る。そうなるとルフィはナミに叶わない。 ナミの言葉は多少真実とは違うが、それでも聞かなくてもわかっている返事はあらためて聞く気になれなかった。ナミは、なんとなく俯く。が、もう碇を上げて、船は進みだしている。この結果に未練はあるにしても後悔はない。 船は颯爽と青い水面を滑るように進む。 ずっと隠れ潜んでいた場所は、入り組んだ入り江だったため、海底もそれに伴い複雑だ。油断をするとあちこちに突出している岩に衝突して、岩礁に乗り上げてしまう危険性もある。 ナミは、素早く気持ちを切り替えると、海流と岩礁群を読むために水面に集中した。 チョッパーがナミの指示に従って舵を切る。 ある程度進んだら、安定した地域に入ったのか、ナミがホッとした表情になる。 「あとちょっと海岸線に沿って進むけど、もう少し先に進んだら、すんなりと外海に出られる潮流があるから。そしたら、この島ともお別れよ。」 大声で仲間にこの島との別れを告げるとさりげなくJJの傍へと歩み寄った。 「良かったの?ロイの眠る場所へ行かなかったんでしょう?」 「ナミさん・・・。」 ロイが涙目で見上げてきた。とはいえ、成長期の少年はもはや、ナミを追い抜く勢いで背を伸ばしている。対等の目線で見つめる。 「実は・・・・行ってきたんだ。」 「え?いつの間に・・・?」 「今朝・・・・。」 「今朝?気が付かなかったわ。」 「うん・・・。」 コクリと頷く顔は今は頼りない。 「ゾロと・・・。ゾロが聞いてきてくれたんだ。あのお店の近所の人から。ロイがこの島に助けられた時、大勢の人にいろいろと世話になったみたいだね。」 手摺りにもたれて空を仰ぐ。 「もう二度とこの島には来ないだろうからって・・・・きちんと別れをしないといけない、って。だから、ゾロが街の人から貰った地図を頼りにロイが眠る場所に行って、きちんと別れてきた。」 「でも、ゾロ、さっき一人で戻ってきたじゃない?」 「僕もその後、食糧の整理をしていたからゾロが出かけたの知らなかったけど、ゾロも最後の別れをしてきたんだよ。・・・・たぶん。」 ナミが不審気にJJの顔を覗く。 「ゾロはさっき会えなかったとしか言ってくれなかったけど。僕に最後の別れをするようにいったのと同じように、ゾロもサンジと最後の別れをしてきたんだ、きっと・・・。」 顔を戻し、今度は視線を後ろに移す。 そこには、ゾロがやはり離れた位置で島を見つめていた。 その姿からは何を考えているのかわからない。が、彼なりに思うところがあるのだろう。静かに海を、そして海面から繋がっている海岸線を見つめている。 きっと、その先に続いているだろう街にいるサンジを思っているのだろう。 「これで僕たち、本当の恋人同士になれたんだ。」 自分の言葉に改めてホッとした表情をして、JJは、ここ暫く見せていなかった笑顔を漸くナミに見せた。 「これでいいんだ。僕たちは・・・。」 JJが幸せになり、ゾロが幸せになり、みんなが幸せなら何も言う事はない。 きっとサンジもこの島で幸せを掴むのだろう。あの少し強気で、それでいてか弱い少女とともに。 今は焼け落ちてなくなってしまったが、小さな店をまた二人で開いて、明るい常連客や優しい近所の住人に囲まれてきっと幸せを掴むのだろう。 ナミも優しい笑顔を見せた。 「そうね・・・。きっと、何もかも・・・・・・・、これで良かったのね。」 結局。 ロイが何を考えて、サンジと二人でみんなの前から姿を消したのか。 嵐に襲われたのだろうことはわかったのだが、それまでどうやって過したのか。 一体二人の間に何があったのか。 それらは何もわからないが、もはや、結論を出す必要はないことだろう。すっきりはしないのだが、そんなこともあるだろう。仕方がない。 どうしようもなく、納得するしかない状況もあるのだろう。 少し出てきた風に髪を押さえて、ナミもJJやゾロと同じように島を振り仰いだ。 船はもう少しで外海への海流をもつ位置へと辿り着こうとしていた。 「あと、ちょっとよ。」 そうナミがみんなに声をかけようとした寸前、違う声に鎖された。 「サンジだ!!」 見張り台にいるウソップの叫び声だった。 彼の声に誰もが咄嗟にウソップが指差す方向に顔を向けた。 崖になっている高台から、白いスカートを靡かせた少女とともに、サンジはメリー号を見下ろしていた。 |
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2007.02.05.