過去と今と未来と3−27




「どうした若いの・・・。かなり酔っているが大丈夫か?」

とある島のとある酒場でマゴット海賊団の副船長、アジは隣で酔いつぶれつつある男に声を掛けた。
普段ならこんなことはしないが、何かいい仕事になる、と海賊ならではの勘が働いたらしい。

「う〜〜〜〜〜〜〜っっ。畜生!!俺の方が絶対いい男なのに、なんであんな剣士がいいんだ?」

カウンターに突っ伏して喚いている客に店主は困った顔で呟いた。

「お客さん・・・、知り合いかい?だったら早々に連れ帰ってくれ!こちとら多少のことなら目を瞑るが見知らぬ男の面倒までは見切れんよ。」
「あぁ・・・、わかった。」

初めて会う男の面倒を見ることなど普段なら到底在り得ないのだが、海賊の勘がこの男を連れ帰れと言っている。アジは長年の勘に従って、酔っ払いの男を肩に担いだ。もちろん支払いは懐の財布を勝手に拝借、ついでに面倒を見たということで財布の残りも頂くことにした。
見知らぬ男を肩に担いで店を出て、「さて、どうするか。」と思案に暮れる。何かしらいい仕事になるという勘はあったが、自分の船に連れ帰ってもこの男自身が金づるになるようには見えなかった。

「あんた、名前はなんというんだ。」
「ロ・・・・ロイだ・・・。」
「そうか、ロイ・・・。あんた、こんなに酔うまで飲むなんて・・・何かあったのか?」

さり気なく聞くと、肩の横で男が呟いた。

「惚れ薬さえあればなぁ・・・。」
「惚れ薬?」
「あぁ、惚れ薬さ・・・。あ〜〜惚れ薬とは違うんかぁ?サンジィを正気に〜〜させてくれる・・・・・薬さえあればなぁ・・・・・すぐにでも俺とのことを・・・・思い出して戻ってきてくれるはずなんだぁ〜〜。」

舌が上手く回らないままの話になんだただの色恋沙汰か、と馬鹿らしくなってくるが、そういえばちょっと待て、とアジは眉を上げる。



昔、自分達の扱っていた『クスリ』と同等、いや、それ以上の『クスリ』が再び出回っていると、最近耳にした。
仕掛け人は誰だがすぐに想像ついた。だが、過去、その男に裏切られているし、その男の娘の命を奪ったということで恨まれてもいる。その為、噂になっている『クスリ』が確かにその男が手掛けているものだとしても、何か裏があるような気がして、今だ直接、その男に接触するのは憚れたままだ。巷で噂の『クスリ』がその男が作ったものかどうかの確認が取れなかった。
アジの考えている『クスリ』がこの男が言っている『惚れ薬』になるかはわからないが、これを使わない手はない、と思った。
この男を使ってまずは『クスリ』を手に入れてみるのだ。『クスリ』が手に入れば、それが過去自分達が扱っていたものかどうか、すぐにわかるだろう。



「ロイ、あんたの恋人が正気になる『クスリ』を手に入れたいか?」
「あぁ?そんなのが・・・・・あんのかぁ?」
「あるんだよ。あんたの大事な人が正気になって、あんたを惚れ直す。そんな夢のような『クスリ』があるんだよ。もし欲しければ、その『クスリ』が手に入る場所を教えてもいい・・・。その代わり、条件があるんだ。」
「ホントに、そんな『クスリ』が手に入るのか?・・・・・俺にできることだったら何でもする!それでサンジが正気に戻るんなら!!ほら見てくれ。これがサンジだ!!可愛いだろう?」

ロイは徐に懐から写真を出した。酔っているせいか、財布がなくなっていることには気づかずに。
写真を見て、アジは、何とも言えない顔をする。

男じゃねぇか・・・。って、名前がサンジなら男か・・・。
・・・・・。しかし、男にしちゃあ・・・。
サラリと流れる金髪に色の白い肌。眉毛がくるりと巻いてはいるがそれがチャームポイントになるかもしれないし、顔立ちだって整っている。上半身しか写ってはいないがスラリとした肢体はすぐにわかった。写真ではわからないが、仕込めばきっといい声で啼くように見えた。

アジはこいつはいい。と内心で舌なめずりする。

この馬鹿な男を使って『クスリ』を手に入れ。
ついでに『クスリ』でこのサンジを中毒にして売っちまおう。男でもこれだけ見目が良ければいい値で売れるのは間違いない。欲しがる連中などゴマンといるだろう。その前に自分が味見してもいいぐらいだ。




そしてアジの想像通りに今出回っている『クスリ』が、その昔自分達の『クスリ』の売買に関わったオセが作ったものなら、それがどれだけの完成度なのかは別にして、ヤツにまた『クスリ』を作らせることも可能だろう。

アジはニヤリと笑った。

「俺の分も『クスリ』を買ってきてくれないか?訳あって俺は直接『クスリ』を買うことができねぇんだ・・・。」
「何でだ?」
「過去にちょっとな・・・。だが、俺にも取り戻さないといけない大事な女がいるんだ。だから、俺の分も『クスリ』を買ってきてくれるなら、その『クスリ』を売っている店を教えてやってもいいぜ?なんなら資金も調達しよう。」
「ホントか!?・・・・いいさ。サンジと一緒になれるなら、何でもする!!」
「ありがてぇ・・・。ついでに、このお前のサンジ、俺にも合わせてくれねぇか?あんたと一緒になった時にぜひ祝福してぇ。」
「そうか?喜んでくれるのか?嬉しいな、お前はいいヤツだな・・・。」

じんわりと涙ぐむ男にアジは、心のうちで罵倒する。が、ロイは素直に喜んでいる。アジの卑屈な笑いが見えていないあたり、酔いは冷めていないのだろう。
馬鹿な男だと心の笑いは止まらない。


「細かい話は明日話そう。明日またここに来る。今日はここでゆっくりとしていけ。」

アジはそうとわからないようにロイの財布から金を数枚取り出し、目の前にある簡易宿を指した。
ロイは何も疑わずに素直に喜んで頷いた。







そうしてアジと細かい打ち合わせをし、ロイはアジに騙されたままオセから『クスリ』を買うことになる。
結局、ロイがアジの元にサンジと一緒に辿り着く前に海で遭難して、ロイが亡くなることになるのだが・・・。












「ま、最初はちゃちな切欠だし、結局はロイの件はロイが行方知れずになっちまった為に失敗したが、それが切欠で次々そういった馬鹿な連中を使って探りを入れてたって訳だ。もちろん手に入れた『クスリ』もきちんと使わせてもらったがな・・・。いろんな種類があるのがわかったし、いい出来で感心したぜ?まだまだ100%って訳じゃなしにいい具合に中毒になってくれる。本当に様様だぜ?」

可笑しそうに笑う男に、老マスターもまた引き攣ってはいたが笑みを溢した。

「じゃったら儂の思惑ははずれじゃなかったようじゃな・・・。儂もまたお前さんらが儂の作った『クスリ』に飛びつくのを待っとったんじゃよ。」

老マスターの言葉にアジは「ほぉ。」と感心した。

「昔のお前さんならこんな方法は取らなかったが、お前さんもずい分と悪党になったもんだな。結構いるぜ?お前さんのお陰で俺達に金を齎してくれた連中は・・・。お前さんの所から余分に買った『クスリ』を俺達に提供して改めて高額で俺達から買ってくれた輩や、かわいいかわいい彼女を提供してくれた輩や・・・。」

「提供とは何だ!!お前らが騙しだんだろうが!!」そう怒鳴りたくなったサンジを留めた音がした。アジが太腿を叩いて立ち上がったのだ。

「で、念願叶ってよかったよなぁ、オセよ。」

立ち上がった男は脇に差した銃を撫でながら老マスターへと近づいた。

「ま、さっき言った通り、今回は対等な立場としてお前さんと取引をしようじゃないか。そうそうは続かないだろうがな・・・。」
「・・・・・・・。」
「俺達の第一段階の目的は、お前の『クスリ』の確認とそれによる商売、それとお前が見つかった場合に接触することだった。これは成功したしな。」
「第二段階があるのか?」

「何を企んでいる」とサンジが横から口を挟んだ。アジはニヤリと笑ってサンジを見やる。

「そりゃあ、もちろん『クスリ』の市場独占だろう?それに伴う人の売買。当たり前じゃねぇか。その為にゃあ、オセには昔のように働いてもらわねぇといけないがな・・・。」
「儂しゃあ、もうお前らの言う通りににはならん。儂はお前さんらに復讐するために『クスリ』を作ったんじゃ。」
「できるかな?そんなことが・・・。」

ヒッヒッヒッと耳に痛い笑い声にサンジは顔を顰めるが、老マスターは冷静のように見えたが、やたらと額に汗が流れている。

何を考えてるんだ、じぃさん!!

サンジが老マスターの様子に何かを感じ取った瞬間、老マスターは懐から何かを取り出した。
周りが一斉にざわつく。


それは爆弾だった。
反対の手には火種となるべくライター。



じぃさん・・・・・。


サンジも老マスターの行動に驚きを隠せなかった。
目の前に位置するアジも目を大きく見開いている。

が、それもつかの間、改めて大きな声でヒッヒッヒッヒッと笑い出す。

「おいおい、オセよ!そんなので俺を脅せると思ってるのか?そんな爆弾、火をつける前に俺様が取り上げちまうぜ?」

アジの言う通りだと、サンジは内心汗を掻いた。
『クスリ』によりそれなりに裏の道に精通しただろうが、自分の動きがそれに伴うかと言えば、誰でも直ぐにノーと答えられるだろう。それだけこの老マスターは実践タイプではない。
それでも、すぐ隣にいる自分なら、老マスターの動作にも目の前のアジの動きにもなんとか対処できるだろう。そうサンジは踏んで、事の成り行きを再度見守った。

「いいから!!!船長のマゴットの所へ案内するんじゃ!!」



気迫だけは誰にも負けずに老マスターは叫んだ。
サンジがこの日出航する云々するとは別に、老マスターもまた早くに決着を付けたいのだろう。ただ、それは気が急いているだけのように見えてかなり危うい。
散々罠に時間を掛けて仕上げがこれでは御粗末としか言いようがないが、それだけこの老マスターの気持ちは切羽詰っていたのだろう。
アジもそれをわかってだろうか、苦笑すると、「まぁ、いいだろう?」と頷いた。
これだけ簡単に老マスターの要求を呑むのはやはり、相手が年老いたただの酒場の店主に成り下がったと思ったからだろう。

「お前さんがこれだけ頑張ってんだ・・・。褒美として船長に合わせてやるよ!付いて来な。」

笑いを消さずにアジは、後に立ったまま同じくニヤリと笑っていた大男に顎で指図した。大男は承知とばかりに「わかりやした。」と返事をし、「付いて来い。」と大きな体を翻した。

「アジ!お前も一緒に来るんじゃ!!」
「わかったよ・・・。まったく忙しないじぃさんになっちまったな・・・。」

奇妙な形になったが、とりあえず狙いは成功になるんだろうな。とサンジはため息を吐いた。






HOME    BACK           10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26  NEXT  




2008.06.12.




なんか私の方が焦ってる?