過去と今と未来と3−28




「もおっっ!!!遅いっっ!!!」

今日一日で何度目のセリフかわからない。
ナミは拳を振り上げ、甲板でいない相手に大きく怒鳴った。
隣でのんびりと空を見上げているルフィが「はぁ〜。」とため息を吐いた。

「どこ行っちゃったのよ、サンジくんは!!!」
「そんなの俺ぁ、知らねぇよ〜〜〜〜〜。」

ふにゃりと身体をメリーの上で伸ばす。暇でしょうがないが、出航を控えているので何もできない。

「俺、見に行こうか?」

ガバリと起き上がり、ナミに提案する。ナミがルフィを見上げるとその瞳がキラキラしているのに気が付いた。

「ダメ!!あんたもまた消えちゃうんでしょう!魂胆はわかってるわよ!!」

ガンと飛んだゲンコツにルフィは「ふ"み"まへん・・・。」と項垂れる。




午前中にはこの島を出る予定だったのが、今はもう日が沈みかけている。このままでは夜になってしまう。出航は明日になるのは必至だ。

「もう・・・・いいわ。明日の天気も問題なさそうだし・・・出航は明日に延ばしましょう。」

ナミが大きくため息を吐きながら溢した。今日の出航は諦めたようだ。
今一度海岸を見てからラウンジへと向かう階段を上がり、途中、手摺りに凭れてぼうっとしていたJJに声を掛ける。

「JJ・・・。夕食の用意、お願い。動いてないからお腹があまり空いてないし、簡単でいいから。」
「うん、ナミさん。」

JJが軽く笑って答える。が、JJの口はそこで止まらなかった。

「でもさぁ、どうせならこのまま出航しようよ。サンジは置いてっちゃってもいいんじゃない?」

途端、人の悪い笑みに変わって話すJJにナミがギロリと睨む。でも、JJは気にしないで続ける。

「だってさ、この船に帰って来ないっていうのはそういうことじゃないの?昔の記憶もないんだから、この船に対しても別にそう思い入れもないんでしょう?コックは僕が居れば問題ないし・・・。」

ナミは、柔らかい声音のまま厳い事を告げるJJにフンと鼻を鳴らした。

「確かにいろいろあったけど、でもサンジくんはこの船の仲間よ!いくら気に喰わないからって言っていいことと悪い事があるわ!」

JJの言葉に腹がたったらしく、一旦は階段を上がったナミは今度は階段を降りだした。

「もういいわ。お腹空いてなから、私、夕食はいらない。もう、部屋へ行くわ。後、よろしく!」

船首で「え〜〜〜〜!!」と泣きそうな声を上げたルフィにナミは手を振った。

「あんた達だけで食べていいから!でも食べ過ぎちゃダメよ!!」

倉庫への扉を開けて一旦、ナミは扉の隣で目を瞑って座っているゾロをも睨みつけた。
ゾロもナミに視線に気づいたらしく、瞑っていた目を開けて見上げる。





出航時間になっても戻らないサンジに、一度ナミが不寝番だったゾロに問いただした。

「何か知らんが、ちょっと朝一に用があるって言ってた。」

ゾロはそれだけしか言わなかった。

「用?どこに行ったのか知らないの?」
「あぁ。」

ナミはそれに納得はしていなかったが、それだけで二人のやり取りは終わっていて、それから、会話はしていなかった。




「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」

結局、今もお互いに何も言わないまま二人はそれぞれの行動に戻った。
が、ナミがその姿を扉の影に全て隠す前に見張台からロビンの声が届いた。

「あれ、コックさんじゃない?」


「え!!」

慌てて飛び出すナミにルフィの「おお、そうだ!」と明るい声が聞こえたのもつかの間、ルフィの声に険しさが含まれていく。

「どうした〜〜〜〜〜!!サンジィィ〜〜〜〜〜〜!!」

彼に届くほどの大声で呼ぶルフィにサンジからの返事はない。
まわりの空気も固くなるのにナミは縁から顔を出した。


そこには見知らぬ老人に肩を担がれながらヨタヨタと歩いているサンジがいた。

「どうしたの?!サンジくんっっ!!」

只ならぬ様子に誰もが船から身を乗り出す。メリー号から集まる視線に先に顔を上げたのは乗組員のサンジではなく、その見知らぬ老人だった。
が、JJだけはその老人に見覚えがある。

「あれ・・・・。酒場のマスター・・・・?」

JJの呟きに隣に立ったゾロは怪訝な顔を向ける。
ゾロの視線にJJは答えるように言葉にした。

「この島で暴漢に襲われたところをサンジに助けられた後、二人で入った酒場のマスターだ。俺、話が終わってから先に帰ったけど・・・サンジ、その酒場に残ってたから、知り合いになった・・・のかな?」
「そういやぁ、ここ最近毎日出かけてたのをどこに行くのかって一度聞いたら、ちょっと知り合った店の手伝いをしている、ってサンジが言ってたが、それのことか?」

JJの言葉にウソップが続けた。半分は疑問系だったが、どうやらその酒場の店主とサンジが知り合いになっただろうことだけはわかった。
が、一体何があったのか・・・・。

ルフィが手を延ばして二人の所へと飛び降りる。会話は聞こえなかったが、ルフィが老人と簡単なやり取りを2・3するとサンジと老人を抱えて素早く船に飛び戻った。
老人も一緒ということでだろうか、いつもと違い、優しく着地した。
そして、着くなり大声でチョッパーを呼んだ。

「チョッパー、チョッパー!!急いでサンジを手当してくれ!!」

ルフィの言葉に、誰もがギョッとする。弾かれたようにチョッパーが前に出てきた。反応早く、医療鞄を手に持って。
サンジはルフィの腕の中でぐったりとしていた。ピクリともしない。
ルフィは急いでサンジを抱えてラウンジへと駆け上がる。チョッパーは驚きながらもそれに続いた。

「一体何があったの・・・・・・。」

ナミの呟きに答える者は誰もいなかった。
ケガ人の治療中はチョッパーの指示がなければ勝手にラウンジへと入れない。自然、ルフィとチョッパー以外は甲板に集まるしかなかった。
ロビンが見張台から降りてきて呆然と佇んでいる老人の肩をそっと撫でた。
老人が虚ろな目でロビンを見上げる。

「一体何があったのかしら・・・?」

よく見れば老人の方も所々傷を受け、服もボロボロになっている。頭が白いのはただ年だけでなく埃を被っているからというのもあった。

「彼は儂を助けてくれたんじゃ・・・・。」

ポツリと出た言葉にゾロは「ちっ」と顔を思いっきり顰めた。














老人を囲む形で和になって座り、ただ静かに老人の話に耳を傾けた。

老人は名をオセと名乗った。今はしながい酒場の店主で・・・。しかし、昔はこの島と辺り一体を仕切る海賊に娘を人質として取られたのを理由に、その海賊に手を貸していたと説明した。
それが、『クスリ』の説明になった途端、誰もが表情を変えた。



「じゃあ、この島だったの!!全ての元凶の『煙草』を手に入れたのは!!」
「ロイは!!じゃあ、ロイはこの島に来たんだ!」

ナミが叫び、同時にJJが立ち上がった。
ナミが老人に喰って掛かった。JJも老人に飛び掛る。
二人に一度に攻め寄られ、老人は身を縮めるしかなかった。あまりの二人の剣幕に、ロビンが”腕”を咲かせて二人を止める。

「落ち着いて・・・・。最後までこの人の話を聞きましょう。」

二人の拘束はそのままに、後の者も表情を険しくさせながらも、皆最後までオセの話を聞いていた。
オセはサンジが記憶が戻っている事も、ロイのことも包み隠さず全て話した。それが、サンジにはありがた迷惑だったとしても、オセとしては話せずにいれらなかった。自分を助けてくれたサンジが仲間に誤解を受けたままにしておくには忍びなかったのだ。



「罠を仕掛けた格納庫にマゴットを誘き寄せたまでは良かったんじゃが、結局やつらの方が一枚も二枚も上手じゃった。儂の罠をまんまと見破っとったんじゃよ。もうダメじゃ、と自爆しようとしたその時、儂を小僧が庇って、・・・・あの通りじゃ・・・。」

老人が『クスリ』を貯蔵しているという倉庫にマゴットを連れ込んだ。
上手い具合に船長のマゴットまで誘き寄せることが出来た。そんなチャンスはそうそう無いだろう。そう思い、そして、相手を前に気が急いていたのもあったのだろう。
そこに前々から仕掛けていた爆弾を着火させ、倉庫ごとマゴットを爆破させようとしたのだ。
だが、何かを感じ取ったマゴットは、取引の最中に隠れて部下に倉庫を調べさせ、爆弾を見つけてしまった。多勢に無勢だった。そうして、見つけた爆弾の一つを使って老人を脅したのだ。「島の連中を殺されたくなかったら『クスリ』をこのまま作れ!」と。
すでに家族のいないオセに対して、今度は島をも人質としようとしたのだ。
いくらマゴットを誘き寄せるために心を鬼にして幾人かの人を犠牲と出したといえ、相手を見つけた今、これ以上の犠牲は望まない。ましてや半分は自業自得の今まで犠牲になった者とは違い、島の連中は『クスリ』とは全く関係のない連中ばかりなのだ。
もはや復讐は果たせぬと悟った老人は、自ら持っていた爆弾で自爆を試みた。が、それに気づいたサンジに身体を張って止められたのだ。



「サンジがじぃさんを庇ってああなったのか・・・。なるほどな。」

腕を組んでウソップが唸った。誰かの犠牲になることを厭わない性格は相変わらずだ。
「馬鹿につける薬はねぇよ。」とゾロが小声で呟いたのをJJは聞き逃さなかった。

爆弾騒ぎにより、倉庫の辺りはそのうち海軍がやってくるだろう。そうなれば『クスリ』のことが海軍にばれてしまう。
まさか本当に爆発させるとは思っていなかったらしく、兎も角と、マゴット達も早々に引き上げたという。




「結局マゴットには逃げられた。・・・・・まだまだ儂は甘いのう・・・。裏家業と言っても所詮、儂は研究馬鹿のただのおいぼれじじぃじゃったよ・・・。」

一通り話し終えると老人は、ただの老人としてしか立ち向かえなかった自分を嘆いた。
どれだけ裏家業としての生業をしていたかは知らないが、元々の切欠が切欠だけに本人が思うほどには本当の悪人にはなりきれていなかったのだろう。

「20年も開発に時間が掛かったんじゃがな・・・・。」




「でもおじいさんはちゃんと解毒剤のことも考えて研究してたんだろう?それは偉いことじゃないのか?」

その言葉はほんのちょっとだろうが、大きなため息を吐いて俯く老人の慰めにはなっただろう。
突然後ろから掛かった声に誰もが振り向く。

「チョッパー・・・。」
「サンジは大丈夫なのか?」

ラウンジ前の扉の手摺りにルフィが座り込み、チョッパーは人型のまま疲れたのか、大きな体を齎せていた。

「うん。無事治療は終わったよ・・・。今は麻酔が効いていて静かに寝ている。外傷は大きかったけど、命に別状はないよ。大丈夫。・・・・でも他にもあちこち骨にヒビが入っているのも確かだし、暫くは安静だね。」

チョッパーの言葉に誰もがほっとした。
老人もチョッパーの言葉にほんの少し、慰められたようだ。

「ありがとうの。先生よ・・・。そう言ってくれて嬉しいが、その解毒剤もまだ完成には至っておらんのじゃ・・・。でも、『クスリ』に苦しんでおる者はまだいる。・・・・じゃから、研究を続けて解毒剤を完成させようかの・・・。」

苦笑する老人は、助けられた命に今度は復讐よりも『クスリ』に犯された者達を救うことに全力を注ぐ気になったのだろうか。
そうだったらいい、と誰もがそっと思った。

一旦は落ち着くと、思い出したようにJJが立ち上がった。



「ロイは本当は騙されてたんだ!これでわかっただろう?ロイは悪くないって!!」

JJはロイが悪意でサンジを誘拐したのではない、と言いたいのだろう。『クスリ』を『惚れ薬』と言って騙されたとしてもサンジを誘拐したのには間違いないのに、兎も角『惚れ薬』と騙されて『煙草』を手に入れたことには安堵したようだ。



「えぇ、ロイのことはわかったわ。・・・・・で、ルフィ。」

ナミがルフィを見上げた。
JJの意見がさらりと流されたことにJJは不満を顔にしたが、ゾロはポンポンとJJの頭を叩いて宥めた。

「どうする?海軍が動き出したとなると、暫く出航は難しいかも・・・。」
「サンジもあんな状態だから、あとせめて2〜3日は出航しない方がいいよ。」

ナミの言葉にチョッパーも賛同した。
しかし、老人は別の意見を提案する。

「じゃが、海軍が島を管理しだしたら反って出航できなくなるじゃろう。まだ今なら混乱しているはずじゃ・・・。今夜のうちなら大丈夫じゃ。儂の倉庫はここから街の反対側あってここから離れておる。今なら海軍が統治する前に出航できるはずじゃ・・・。」

それを証拠とばかりにロビンが後を振り返った。

「どうした、ロビン?」
「見知らぬ海賊船を見つけたわ。島から出るところみたい・・・。」

能力を使って見つけたのだろう。しかし、暗闇の中、僅かに見えていた船の明かりが徐々に近づいてくるのがわかった。
誰もがロビンの差す方角を見つめる。
と、明かりに浮かび上がった海賊旗に老人が顔を強張らせる。

「あれは・・・・・・・・。マゴット海賊団の船!!」
「彼らはきっと、闇に乗じて出航するつもりね。」

それを聞いた途端、ルフィは判断を下す。

「ナミ、じゃ、俺達も出航しようぜ?」
「えぇ?今から?もう夜中よ!岩礁とか危ないわよ!!」

ナミの言う通り、すでに辺りは真っ暗だ。老人がサンジを抱えてこの船に着てからすでにかなりの時間が経過していた。
深夜に島を出るなんて危険極まりない。

「でも、今なら海軍に見つからずに島から出られるんだろう?なぁに、進路はナミが見てくれたら大丈夫だ!それに、向こうが進路を塞いだら、退かせばいい!」

ルフィはニヤリと笑った。

誰もが唖然とする中、ゾロはルフィらしいと密に笑った。











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2008.06.22.




倉庫でのマゴットとのやりとりを割愛しちゃいました・・・。私もかなり急いてるかも・・・ダメだね。