過去と今と未来と3−30




船長室ではルフィとマゴットが対峙していた。
すかした表情をしているルフィに対して、マゴットの息がかなり乱れている。若さもそうだが、その実力の違いも性質を考えれば容易にわかるというものだ。

「おめぇも、もうお仕舞いだ・・・。」

拳を強く握ってルフィが呟いた。

「はぁはぁ・・・・・・くそう・・・・・・・。」

身体のあちこちから血を流してガクリと膝を折り、そのままマゴットはバタンと倒れた。
が、それでも滑らかに血と共に口から言葉が紡ぎだされる。

「まだわからないぞ・・・。甲板では俺の部下がお前達をすでに倒しているはずだ・・・。」

苦し紛れの言葉としか受け取れなかったが、どうやらマゴットは本気らしい。血まみれの顔には、ニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。

「どうしてだ?」
「俺は狡賢いんでな・・・。」

「そりゃあ毒を使ってるからか?」

二人のやりとりの間に割って入った声があった。

「ゾロ!」

ルフィが後ろを振り返った。
その瞬間、マゴットの腕から延びる一本の針がルフィを狙う。

カンッ

咄嗟にゾロから差し出された刀がそれを弾いた。

「油断するなよ、ルフィ・・・。」
「わりぃわりぃ・・・。でも、ゾロが助けてくれるからよ・・。」

悪びれることのない船長にゾロはため息を吐いた。

「生憎俺達には、そんなもんじゃきかねぇよ。」

フンと鼻息荒く、ゾロは敵船の船長に告げる。

「行くぞ、船長。もう火もこっちに回ってくる頃だ。」
「へ?」
「ここに来る前に倉庫を見つけたんでな、火をつけた。すぐに火の手が拡がる。メリー号に戻ってこの船から離れるんだ。」
「迷子になったんだろう?」
「うっせい!」

偶然の産物だろうが、倉庫を見つけたことはラッキーだった。おまけの目的だが、それも叶うことにはなった。

「ゾロが片をつけてくれたのか?」
「まぁな。コックがじぃさんの願いを叶えたいっつってたからな・・・。」
「そっか。この船ももう俺達の進路塞げねぇだろうし・・・。じゃ、戻るとすっか・・。」

さっさとルフィは踵を返した。

「お前ら・・・。俺の大事な『クスリ』を・・・・!!」

あっけらかんと船長室を出て行くルフィ達にマゴットはただ呆然と見送るしかなかった。

「所詮、この界隈でしか巾をきかせないレベルの海賊だ。俺達の相手じゃねぇ。」

ポツリと呟いたゾロの言葉にマゴットはガクリと項垂れた。



あまりにあっけない海賊の最後だった。
















ごうごうと燃え盛る船を後に、メリー号は外海へと流れる海流に乗った。
敵船の生き残りはきっと島へと逃げ泳ぐだろう。そうなれば、海軍に見つかるのは必至だ。
いや、この騒ぎでもう海軍はこちらに向かっているかもしれない。ゆっくりとしていられない。
船の倉庫に積まれていた大量の『クスリ』は燃え消えた。
海岸に残っているだろう老人にもはやそれを伝える術はないが、きっとこの燃え盛る炎と煙でことの顛末がわかるに違いない。
罷りなりにもルフィ達がやられたのではと心配しても、後日、海軍の流す情報で全てわかるだろう。彼は情報に関しては裏道のプロなのだ。





まだ明けない朝日を目指して、メリー号は先を急いだ。








島が見えない位置にまで来て、メリー号はナミの指示により休憩とばかりに速度を落とした。
戦闘だけでなく、暗い海を進むのにはかなりの緊張を要したようで、誰の顔にも疲れが見えた。
安堵の息とともに、それに合わせたように朝日が正面から見え出した。赤い色が水平線に拡がる。


一戦すんでほっとしたのか、ルフィがテンション高く、「飯〜〜〜!!」と叫びながらラウンジの扉を開けた。
が、そこはシンと静まり返っていた。
「あぁ、そうだった。」とルフィの後についてラウンジに入ったゾロはパンと額を覆った。

「どうしたんだ・・・。」
「ルフィ・・・。」

ウソップが暗い顔で座り込んでいる。声に気づいて、そのまま入ってきたルフィを見上げた。
その横には布団で寝ているサンジがいる。

「サンジどうしたんだ?さっき起きたんじゃなかったのか?」

何が起こったのかわからない、という顔でルフィは懐まで寄り、サンジの顔を覗く。
敵は大勢いたが、大した敵ではなかった。よほどのドジを踏まなければこんなことにはならないはずだ。

ポチャリと洗面器の水で洗った手を拭ってチョッパーがふぅと息をつく。

「毒はほとんど抜けたから、大丈夫だと思う。でも、暫くは身体が痺れて動けないし、もともと重傷だったから少なくとも2週間は安静だよ。」

だから先ほどゾロが毒がどうとか言ってたのか、とルフィはチョッパーの診断を納得した顔で聞いた。
ただ詳しいことがわからないので、ルフィにしては珍しくそのままチョッパーの説明を静かに聞く。

「毒矢を受けたんだよ。頬を掠めただけだけど、即効性で強いヤツだから・・・。でも、前、調べた『煙草』と似た成分だったから対応もすぐにわかって良かったよ。ちゃんとした解毒剤はないけど、徐々に毒は抜けるようになるから、命に別状はないよ。」
「そっか・・・。大したことなくて良かった・・。でも・・・・・よくねぇ!」
「は?」

ルフィの矛盾する言葉に誰もが突っ込みたくなった。

「何が良かったのに良くないの?」

ナミが怪訝な顔をする。

「サンジ、どうせまた誰かを庇ったんだろ?」

誰もそこまでの説明をしていないのに核心めいた言葉に、瞬間ビクリとJJの肩が震えた。
チラリとゾロがJJを見やる。

「それが誰だかなんてどうでもいい!でも、何度言っても直らねぇ・・・。バカだな、サンジ。しかも、今回、2回続けてだろ、人庇ったの・・・。」
「うん・・・・。バカね、サンジくん。でも、きっと一生直らないわよ、彼の性分だもの・・・。」

サンジが毒矢を受けた経緯をすでに知っていたナミは、そのまま否定もせずにポツリと呟いた。

「何度言っても直らないのなら、もう彼の好きにさせたら?」
「ロビン!?」

まるで見放すような物言いのロビンにナミがキッとなる。
ロビンは手でちょっと待って、とナミを諌める。

「その代わり、彼がその自虐的な行為を行おうとしたら、誰かがそれを先に止めるしかないと思うわ。」
「ロビン・・・。」
「バカは死ななきゃ直らないってことか・・・。」

ゾロが鼻を鳴らした。

そうかもしれない。
誰もがそう思った。

JJは何も言えなかった。





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2008.07.08.





相変わらずマゴット船長、出番ほとんどなし・・・で終わっちゃいました・・。あれ?